土方さんに訊かれた。


「チャイナ娘に惚れてんのか?」


俺は答えた。


「んな訳無ェだろ死ね土方」


チャイナ娘と言えば、……チャイナ。あのチャイナ。アイツしか居ねえだろ、チャイナなんて。
何が悲しくてあんなゴリラで餓鬼な奴を相手にしなきゃなんねえんだ。
マジで死ねよ土方クソヤロー。


「……へェ、そ?」


意味ありげににやにやと笑う土方が史上最高に鬱陶しい。言いたいことがあるならはっきり言いやがれニコチンカス。


「なんですかィ土方さん、あんな餓鬼に興味あるなんて初耳でさァ。ロリコンとか引くわー」
「誰がロリコンだ!……まァ餓鬼同士似合いというか……、頑張れよ」
「死ね。」


平静を装うものの、心臓は狂ったように暴れている。……何コレ。何図星突かれたみたいになってんだ。


「……クソチャイナ」


誰があんな女。




******




気が付けば馴染みの公園に居た。

……おいおいどうなってんだ。
ベンチ硬えし煩えし、昼寝には不向きなのに。


「神楽ちゃんっ!」


餓鬼の一人が呼んだ名前にびくり、反応してしまう自分が憎い。
アイマスクで遮る視界の先、チャイナが、居る。今日もあの番傘を差して、きっといつものように色気なく酢昆布なんかをしゃぶりながら餓鬼臭く駆け回るのだろう。
てめーがいつまでも餓鬼だからそれを相手にする俺まで土方に餓鬼扱いされるんだ、女なら黙って俺に護られてろィ。……あり、なんで俺がチャイナのこと護る前提?
どうやらぶっ壊れた様子の自分の思考回路に舌打ち、アイマスクを外して元凶であるチャイナにこの苛つきをぶつけてやろうと明順応を待つ視覚。形を取る光景に、橙を見付けた。


「あの、神楽ちゃん、僕……」


ほっそりとした白い腕、その先は引かれ、頬を染めた野郎に握り締められた小さな手。きょとんとそれを見つめるチャイナは全く以て状況を理解していない。


「僕、神楽ちゃんが……」



──理解なんてさせてたまるか。



「人生捨てるにはまだ早ェんじゃねえのかィ、坊主」
「え……」


強張る肩に手を置いて、振り返った餓鬼の泣きだしそうなその顔を見下ろす。
頑張って貰ってるところ悪いねィ、だが。


「一時の感情に任せてその地球外ゴリラに熱上げるこたァ無ェ、止めときな」
「あ゙あ゙!?誰がゴリラアルかこのクソサド!!」
「ほーら。こんなゴリラ、あんたの手には負えねーだろィ」


こんな面白い奴、易々と他の野郎に渡す訳にはいかねえんでィ。


「え、あ、神楽ちゃ……」
「ん?警察のお兄さんの言うことが聞けねえのかィ?」
「!ご、ごめんなさい……」


逃げるように去っていく餓鬼を見送り、視線を戻せばそこには怒り心頭のチャイナ。睨み付けてくる蒼い瞳は、俺をどう映すのか。


「……よく解んないけど、オマエの所為できっと友達が減ったアル。どうしてくれるネ」
「俺はただ人助けをしただけでさァ、あの餓鬼が黒歴史を作らないようにねィ」
「何アルか!私と友達だったら不幸になるとでも言いたいのカヨ!?」
「そんなこたァ言ってねえよ。ただ、男としての幸せは掴めねえだろうな」
「むああ!意味解んねーけどムカつくアルゥゥゥ!!」


鋭く繰り出された蹴りを躱し、次々飛んでくる攻撃を受け止め距離を詰める。
戦闘の意志丸出しの表情。
あァ、これを女のソレに変えられたらどれだけ気持ち良いだろう。
俺にしか見せない、誰も知らないカオに。


「てめえにゃあ並みの男は寄り付かねーよ」
「あん!?神楽様のモテ度ナメんナヨ!!」
「自意識過剰でィ、バーカ」


気付いちまったモンは仕方が無ェ。認めたくはない事実だがねィ。


「テメェみてえなのをわざわざ相手する俺も、存外馬鹿かもなァ」
「オマエがバカなんてもう周知の事実ヨ!!」
「……そーかィ。」



馬鹿な女には馬鹿な男がお似合いだ。







2011.12.29





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