今日も奴はサボリだと溜息に苛つきを込めて話す男に、上司ならしっかりしろヨ。などとからかうように言った。
奴の扱いには誰であろうと手を余す、それを解りきった上でわざと発した言葉。かく言う自分もそうではあるが、目の前のニコチンとは大きく異なる意味での余しようであろう。
まあ元気を出せと酢昆布を一切れくれてやれば、おちょくっているのかと怒りだした。酢昆布の希少価値を知らないことに怒り返せば、マヨネーズにいかに人類が救われているかと意味不明なことを熱弁し始めたので、呆れついでに一言言い捨てその場を去った。それが数分前。






「……さて、神楽サン。」


手首を縫い付けられたベッドがギシリと鳴いた。振りほどこうにも未だ掴めない状況にどうやら脳は混乱しているようだ、上手く信号を発してくれない。


「浮気の容疑で逮捕でさァ。何か言い分はあるかィ?あっても言わせねーけど」


──安っぽい装飾輝く恋人達の戯れの宿、いわゆるラ●ホ。
その一室のベッドの上、更に少女の上。にこりと、それはそれは綺麗な笑顔にはきっと誰もが見惚れてしまうだろう。
神楽はひく、と口端を引き攣らせた。


「う、わき?ハ?」
「俺が居ない間に土方さんとお楽しみか?随分と尻軽な女になったモンだなァ、オイ」
「ハァ!?」


言い掛かりにも程がある。
先刻の戸惑いも怒りの業火に焼き消され、至極勝手な沖田の物言いに神楽は声を荒げ応戦を開始した。


「意味わっかんねーヨ!突然現れたと思ったらこんな処に引っ張り込みやがって!欲求不満かアァン!!?」
「他の男とイチャついてるテメェが悪ィ」
「マヨラー相手に何勘違いしてるアルか!」
「…………」
「なんとか言、っ……!!」


──わあわあと喚き暴れる神楽の頭数センチ横に降り落とされた拳。
目を見開いたその先に、眉根を寄せた男の顔。心なしかそれは、今にも泣きだしそうに歪んでいて。


「サド?」
「…………」
「沖田」
「…………」
「……そーご」


呼び慣れないその名を自信無さげに零し、揺れる瞳を見つめる。
そしてもう一度。今度はしっかりとかたちをなぞるように繋いだ音は、空(くう)に放たれる前に呑み込まれた。


「っん、ぅ」
「神楽……」


突然なのはいつもだった、が、ここまで執拗に、そして深く求められたことは無い。
抵抗しようにも、縋るような何処か弱々しさを感じさせる行為にいつものペースを掴めない。


「っそ、ご……」


生理的な涙が滲む。苦しい。
──それでも、拒むことは出来なかった。


「……どうした、ネ」
「ちゅーしたい」
「今してるじゃねーカヨ……」
「足りねえって、こんなんじゃ、全然。」


貪るようにただ一方的な口付けに太刀打ちの仕様が無い。呼吸すらままならない状態に、流石の神楽も白旗を揚げざるを得なかった。


「っも、無理アルっ……!」
「ちょ、痛、痛ェ」
「ああああっち行けヨクソサドが!去勢してやろうカコノヤロー!!」
「わーかったから落ち着けアホ」


それでも離れるつもりは無いらしく、重ねた身体もそのままに沖田は神楽を抱き締める。隊服の上着を脱ぎ捨ていつもより軽装な沖田の熱は、難なく神楽を包み込んだ。


「……オマエ、今日、変ヨ」
「変じゃねえ、ムカついてんでィ」


存在を確かめるかのように籠められる両腕の力。子供染みたそんな動作がどうしようもなく可愛いと思えてしまう。


「……マヨラーに、ヤキモチ、アル?」


ぴく、と揺れた身体は言葉を追い越して問い掛けに応えた。


「……ん。」


耳元で拗ねた声。思わず笑みが零れる。


「男の嫉妬は醜いって、銀ちゃんが言ってたネ」
「うるせ。……悪ィかよ」
「だっせーアル」
「……クソチャイナ」


沖田虐めが楽しくなった神楽は次なる雑言に考えを巡らす。SだSだと言いながら自分にはこんな一面も見せるのだとある種の優越感に浸り余裕を取り戻し始めたその刹那、感じる違和感に目を細めた。


「……オイ」
「なんでィ」
「変なとこ触んじゃねーヨキモイ」
「キモイじゃなくてキモチイイだろィ?照れなくてもいいでさァ」


沖田の手がさわさわと無遠慮に神楽をまさぐる。口付けのその先を、と、せがむような性急さで。


「照れじゃねーヨ心からの拒絶アル」
「──お前が中々素直になれないってこと、俺は解ってるぜ」
「恰好付けてるつもりのところ悪いナ、鏡見てみろヨ変態が映るから」
「え?鏡に自分の痴態が映るのを見てェ?とんでもねえビッチだな」
「とんでもないのはオマエの耳と脳の造りアルぅぅぅ!!!」


宜しくない流れに身の危険を感じ抵抗を開始した神楽を嘲笑うかのように、沖田の唇が神楽のソレを塞ぎ、身体の自由を奪う。脱力し大人しくなった神楽の紅潮した頬をぺろりと舐めるその男の何処にも、先程子供のようだと評された可愛げのある嫉妬は見当たらなかった。


「テメェが誰のモンなのかしっかり自覚して貰わにゃあ困るねィ、神楽」



囁く声は、妖艶で甘美な束縛。



「躯に教えてやりまさァ、……ちゃんと憶えるんだぜィ?」



逃げ道が無いことに、気が付いたのは今更だった。







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伍萬打リクのボツ。

2011.12.26




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