建前と本音と本音 後






「……ん」


黙々と読書(?)に勤しんでいた銀時は、ある異変に眉を動かす。


「チャイナSMプレイ、凌辱チャイナ娘、チャイナっ子と……」


今現在自分が見ていたソレ、ありきたりな水着グラビアを置いたその場所に広がる淫靡な絵面に印字された文字を読み上げる。


「…………」


引き攣る口元。沖田が持ち込んだ冊子の殆どが少女を連想させるワードを含んだ題字を掲げていることに、気付いてしまった。


「……沖田くん」
「へい?」
「コスプレモノが好きなの?」
「いや?別に」
「いやいやいや、こんだけ持っといてそりゃねーわ」


焦ったように言い走る銀時の視線を辿る沖田。訝しげな表情は一変、その緋色に映した対象を確認するや否やにやりと妖しく口角を上げた。


「あァ。エロいですよねィ、チャイナ服って。」
「え」
「特にスリットなんか最高でさァ。蹴り上げる度に太股丸見えですぜ?堪んねえなァ……」


スリット入りのチャイナ服でそんなに暴れる女が居るか。

……あの少女以外に。


(確信犯……!!)


「喧嘩中にそんなこと考えてたの君。ドS自負するぐらいだから変態だろうとは思ってたけど、……最早犯罪だよね」
「俺はいつも、どうやってアイツに菊一文字をブチ込んでやろうかだけを考えてまさァ」
「何なのソレ。バイオレンスな愛情表現なの」


呆れ加減に目を細める銀時を余所に、沖田はふるふると震えだす。武者震いのようなそれに構え、銀時はごくりと生唾を飲み下した。


「……チャイナを」


吐き出された重低音、揺れる空気。


「チャイナを(押し)倒す瞬間のことを考えるだけで、俺の菊一文字は暴発寸前でさァ!!」


前屈み気味に声を荒げる沖田に白目。


「菊一文字ってソッチぃぃぃぃ!!?」


──銀時の絶叫に震える万事屋。


「あ、やべ、旦那、トイレ貸してくだせえ」
「勝手に行けエロガキ!!」
「ただいまアル銀ちゃーん」
「きゃぐらちゃんんんん!!?」


渦中の人物──神楽の突然の帰宅。机上には放置したままのアダルト誌達が未だ存在しており、神楽の視界に入ってしまうのも時間の問題であった。


「ん、何アルかコレ」
「オメーにはまだ早えから見なかったことにして戻してくださいお願いだから!!」


神楽の手中にあるそれをはたき落とす。怪訝な顔で必死の形相の銀時を見つめ、神楽は不満げに口を尖らせた。


「なんで私には早いアルか!ガキ扱いすんじゃねーヨクソ天パァ!!」
「駄目っつったら駄目ですぅ!」
「だからなんてアルか!!」
「あーん!?そんなの……」


白熱する二人の口論。その間にす、と立ち入る影が、銀時の肩に静かに手を置いた。


「……良いじゃねえですか旦那。そこまで隠すことでもないでしょう」
「トイレはどうした思春期くん」
「安心しなせえチャイナ。旦那はただお前にサプライズを仕掛けたかっただけでさァ」
「シカトか」


振り返る沖田の手には件の冊子。
あまりにも作られた笑顔に良い予感はしなかった。


「サプライズ?ていうか居たアルかサド」
「旦那はお前に新しい服を見繕ってやるつもりでこっそりカタログを取り寄せてたんでィ」
「……え?沖田くん?」


ぱらり、ぱらりとページを捲る沖田、熱心に視線を注ぐ神楽。
銀時は新八のツッコミの有難みを知った。


「んー……?モデルが変なポーズばっかりで肝心の服がよく分かんないアル」
「動き易さ重視の品なんでさァ」
「そうなのカ?」
「あァ」


真顔でとんでもなくでたらめな嘘をつく男が恐ろしい。


「でも私、まだ今の服で充分アルよ?」


着用しているチャイナドレスをぱたぱたとはためかせる神楽。
ああそんなことをしたら目の前の変態が喜んでしまうだろう、銀時が咄嗟に目を遣ると、予想に反し真面目な顔の沖田が冊子を手放した瞬間だった。


「何言ってんでさァ、よく見ろィ」


伸びた手が神楽へと向かう。
……あれ、ヤバくね?


「ぎゃっ」
「例えばこのスリット。こんなんじゃあ、脚が短く見えちまうぜィ」


スリットから覗く白い脚をするり、撫でたのは紛れもなく警察である筈の男。


「それから、ココも」


妖しげな手つきで腹部のラインをなぞる。神楽はひいっと小さく声を漏らした。


「こんなに余裕が有るんじゃあ太って見えまさァ」
「ま、マジでか」
「おう、マジマジ」


ココも、ココも、ソコも、あ、この辺も。

べたべたと神楽の身体中に手を這わせ、指を走らせる沖田。セクハラ以外の何物でもないその行為に、神楽はふむふむと頷き倣うようにその箇所を辿っていた。


「なんてことネ……!折角のないすばでぃを自分でダメに見せてたアルか!」
「ナイスバディ?発育不全の間違いだろィ」
「ああん!?脱いだらスゴいんだぞコノヤロー!!」
「マジでか」


べろりとチャイナ服の裾を捲った沖田が神楽に殴られ、伏したと思いきや下からの美味しいアングルを生かし見事神楽の下着事情を知ることに成功した。
もう勝手にすればいい。銀時はソファーに腰を下ろし欠伸をしつつ目を閉じた。



「あー……、暇。」



依頼無し、私用無し、金も無し。
日常は今日も平和だ。






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暖炉虫さまリク
『見廻組の件で世話になった銀さんにエロ本持参でお礼に来た沖田が神楽にセクハラ』
遅れてしまい申し訳ありません…!
沖神と言えるのか非常に微妙なことに土下座。
リクエストありがとうございました!