12/06/11(月) ▼気付いていたんだ、あいしてる。 ※暗い 充足感と虚無感、それだけ。 「はァっ、はっ……」 痺れた頭に居残る快楽。気怠さの残る身体は起こすのも億劫で、汗ばんだ肌を合わせたまま昂ぶりが収まるのを待つ。先程まで掻き抱いていた細く白い肢体はぐったりと投げ出され、乱れた橙が寝具の上に散らばっている。 「……、っは」 形容し難い感情に口元が歪む。 愛を確認しあった訳でも辛抱の利かない情欲に自我を失って及んだ訳でもない、あまりに理性的な行為。 ──この手で、犯した。 力には屈しない少女に、決定的な違いを叩きつけ絶望を教えた。犯すことで、服従を強いたのだ。 「……チャイナ」 涙の跡が残る頬に口付ける。何故そんなことをしたのかは自分でも解らない。刹那胸に走った正体不明の痛みは、ただの激しい行為の余韻と片付けた。有無を言わせぬ一方的な追悦の代償、と。 「……おきた」 定まらない視線を遠い景色に放った神楽が小さく口を開いた。初めて呼ばれた己の名に場違いな歓喜を覚え、未だ麻痺した理性をさらに押し退ける。思った以上に気分は高揚しているらしく、行為の意味を履き違えてしまいそうになる。まるで愛を交えたかのような、甘ったるいだけの行為を終えたのかと錯覚する程の意識の浮遊。決してそれを望んでいる訳ではない筈、なのに。 「最後にひとつだけ、言っておくアル」 「……最後?」 起き上がり見下ろす顔に、日常と変化は見当たらない。ただ、碧眼の中に映る自分が酷く小さく見えた。 「……好きだったヨ、沖田。」 次に目を覚ましたとき、其処に神楽の姿は無かった。 (あいつが消えた江戸の空に、遅過ぎる愛の言葉を吐き出した) ← → |