11/12/30(金)
▼天邪鬼の正直



「好きヨ、そーご」

愛しの神楽が俺の名を呼び、真っ赤な顔で微笑んでいる。
ああ、俺はなんて幸せなんでィ……。

「俺もでさァ、神楽」

手を伸ばし、橙がかった桃色の髪に触れる。
そのまま俯く神楽を抱き寄せ、柔らかそうな唇に自らのソレを重ね――……。

「っごはッ!!?」

腹部に激痛が走った。驚きで目を開けた先は闇。あれ、暗い、……あ、アイマスクだ。

「なんでィ今のは……」

アイマスクを引き上げると、見慣れた公園の風景。そして、

「チャイナ?」
「!!」

自分の方に背を向けて立ち尽くす、紫の番傘をさしたチャイナ服。夢にまで出てきたある意味憎らしい少女が、居た。

「テメー、寝込み襲いやがったな。ったくとんだ卑怯モンだねィ」

腹を擦りながら身体を起こす。それと同時に口から飛び出す喧嘩腰な言葉。本当に言いたいのはこんなことでは無いのに、素直になれない自分にほとほと嫌気が差す。
(会えて、嬉しいんだ)

「…………」

それなのに、少女は黙りこくったまま微動だにしない。沖田はむっと眉根を寄せ、小さく舌打ちをした。

「無視かィ。喧嘩売っといてその態度は無ぇんじゃねーか」
「…………」
「クソ女いい加減に……」
「っ……!!」

虚しさと苛立ちに堪えきれなくなって、乱暴にその細い手首を掴んだ。予期していなかった行動なのか神楽はぐらりとよろめき、紫の傘が地面に落ちる。

「え」
「あっ……」

沖田は目を見開き固まった。しかし無理もない。
何故なら目の前の少女の顔が、
──真っ赤に染まっていたから。

「チャ」
「ひ、卑怯なのはお前ヨ!!」

神楽が初めて言葉を発した。
それは少し震えた、羞恥を含んだような声。

「いつもはゴリラとかガキとか、私のことまともに呼ばないクセに」
「おい、何……」
「寝言で名前呼ぶなんて卑怯アルっ!!」
「っっ!!?」

なんてこったい。どうやらあの夢の最中、知らず知らずの内に声に出してしまっていたらしい。
『神楽』
まだ呼んだことの無い、その名を。


「……チャイナ」
「何アルか」
「……かぐら」
「……何、アルか」

良い機会だ、もう隠すことも無いだろう。
素直になって、みようか。

「神楽」
「しつこいネ」
「団子でも、どうですか。……一緒に」

拾い上げた傘を差し出し、やっとの言葉はやっぱり食いモン関係。
情けないがこれが精一杯、なんて。

「…………」
「嫌かィ?」

傘を受け取るのも早々にぷいっと逸らされる顔。それでも、染まった頬が見え勝手に口元が緩んだ。

「……行ってやっても、良いネ。サドヤロー」
「素直じゃねぇなァ」

ズカズカ大股で歩きだした可愛げもクソも無ぇ女がどうしようもなく愛おしく見えるのは、言うのも寒ィが“恋”っつーモンの所為なんだろう。
やたらと堅く傘を握り締めてんのは、俺相手に緊張してくれてると思って良いのかねィ?

「……っ!?」
「奢ってやるんだからこれくらい許せよ?」
「……調子乗んなヨ、バーカ」


──繋いだ手は、夢とは違うぬくもりを確かに伝えた。




サイト移転前の文章。まあなんて進歩の無い…。 



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