11/12/30(金) ▼ウェザーリポート 「……サドは」 聞いたことの無い弱々しい声。俯くチャイナの強く握られた拳は、どうやら俺を殴る為に作られたものではないらしい。 会って早々喧嘩を売られるというのも考えモンだが、らしくないそんな姿を見せられたって困る。 何故かって、そりゃ……、 「姉御のこと、好きアルか」 想いを寄せる女に会いに行こうと手土産を持参して屯所を飛び出した本日、晴天なり。その女に訳の解らん勘違いをされている俺の心、……曇天なり。 ウェザーリポート 「……は」 あまりの衝撃に一瞬呼吸を忘れた俺の口は、そう小さく漏らすだけに終わった。突拍子もない発言に思考が追い付かない。 「か、隠さなくても良いアル。別に責めようって訳じゃないネ」 「え、ちょ、何」 「確かに姉御を取られるみたいで悔しいけど、……っ」 そこで言葉に詰まり、チャイナは突然泣き出した。マジでなんなのコイツ、意味解んねえ(泣き顔すっげえソソるけど)。 「オイ」 「やっぱり嫌アルぅ……!」 「チャイナ」 「サドのバカヤロぉぉぉ」 一方的な展開、そして遂には馬鹿呼ばわり。流石に頭に来た俺は、涙で濡れた頬を優しさの欠片も無く両手でべちっと挟んだ。 「ふむっ!?」 「テメェ、一人悲劇開いてんじゃねーよ。俺が何、姐さんのこと好きだって?」 「…………」 気まずそうに目を伏せ、静かに俺の手を引き剥がそうとその小さな手を重ねるチャイナ。それを見逃す筈も無く、半ば強引に手を取り指を絡ませてやれば、面白い程真っ赤な顔が俺を見上げた。 「……だってさっきそこで見たヨ、オマエと姉御が話してるの」 「偶然会っただけだっつの。殆ど挨拶しかしてねえ」 「でもオマエ……、姉御の前だといつも笑うネ、優しそうに」 それを聞いて、俺はチャイナを心底馬鹿だと思った。残念ながら俺は姐さんに優しく笑いかけたことなど一度も無い。近藤さんの死体を背に血の着いた拳をバキバキ鳴らすその姿に恐怖し、姐さんの言葉に強張りまくった笑顔を返したことしかない。それが“優しい笑顔”に見えるなんて、コイツは。 「どんだけ俺のこと好きなんでィ、バーカ」 絡めた指を解いて、今度は身体ごと腕の中に閉じ込めた。「誰も好きだなんて言ってねーヨ!」なんて、どの口が言うんだか。 取り敢えず強く抱き締めて、さっきの的外れな質問の答えでも囁いてやるとしよう。 (俺が好きなのはテメェだ、アホチャイナ) おまけ 「そういえばお前、傘は」 「あ……、落としたアル」 「はぁ?何処にでィ。日出てんのに馬鹿かテメー」 「お前が姉御と話してた所ネ、多分。なんでかそのときの記憶があんまり定かじゃないからはっきり覚えてないアルけど……」 「そんなにショックだったのかィ?俺と姐さんが一緒だったの」 「……違うネ、ただ」 「ただ?」 「そこに居るのが自分だったらって思っただけ……、アル」 「…………」 「……サド?」 「テメェ、可愛すぎだろ。犯すぞ」 「!?だ、黙れヨ変態!!」 ぐらたんからの矢印感が強過ぎて気に入らんかったので下げた品。 ← → |