屈辱
サテライトには、私より小さな子供たちがたくさんさまよっている。
孤児院にすら辿り着けない、かわいそうな子供たち。
それでもここでは、非情にも性別や年齢なんて関係ない。
強さが全てなのだ。
屈辱
『何かいいものないかな〜』
「最近はDホイールの部品が高値で取引されるらしいぜ。」
『Dホイール?』
「まぁ簡単に言うとデュエル用バイクだ。ライディングデュエルっつーのが世間では流行っているらしい。」
『ば、バイクに乗りながらデュエル…?!おっかないなぁ。』
「おそらく、サテライトでもそんな奴が出てくるだろうな。」
『か、勝てる気がしない…』
私たちは今日も相変わらず、ジャンクの山を漁っている。
京介がどこからか聞きつけた噂を期待して、私たちはDホイールとやらの部品を探しているのだ。
…って、そもそもDホイールがどんなのかも知らないんだから、部品なんて一層わかんないわよ。
「ちょっと俺はあっちの方を見てくる。ろじこ、あんま遠くにいくなよ。」
『わかったー。』
京介は少し離れたジャンクの山に向かってしまった。
私は私で、何か金目のものはないかと足元を探して歩く。
すると、何かキラキラするものを見つけた。
『こ、小銭!!…って、違うか。なにこの小さなカードみたいなやつ…』
「あ、こんぴゅーたーちっぷだ!」
『え?』
気がつくと、目の前には私よりも幼い子供2人がこちらを指さして見ている。
『こんぴゅーたーちっぷ??』
「うん!お兄ちゃんが言ってた!それ、でぃーほいーるに入れると、でぃーほいーるが動くんだって!」
『へぇ…子供なのに私より詳しいことを……って、これDホイールの部品なの?!』
これは京介に自慢しちゃお!!
…と思ったが、目の前にいる2人の子供に目をやる。
ボロボロの服を着て、痩せている。
このサテライトのことだ。
誰にも助けられず、まともにご飯も食べていないのだろう。
『……。』
「お姉ちゃん?」
『これ、あげるよ。』
「え?!」
子供たちは目をまん丸にしてこちらを見る。
『あげる。これを売って、そのお金でちゃんとご飯食べな。』
「でも…」
『うん?』
「お兄ちゃんが、知らない人からはものをもらうなって…」
『…そうか。まぁそうだよね。』
ただほど怖いものはないって、いうもんね。
ここサテライトじゃ余計、その言葉通り。
『お兄ちゃんがいるのね。』
「うん!お父さんとお母さんおかわりに、ぼくたちと遊んでくれるお兄ちゃんなの!」
私はホッとした。
この子たちには、ちゃんと面倒をみてくれるお兄ちゃん的存在がいるんだ。
『そう。きみたちは、こんなところで何してるの?あまりこんなとこ歩いてると、お兄ちゃんが心配するよ?』
「でも…」
『?』
「お兄ちゃんが、でぃーほいーる作るの、お手伝いしようと思って…」
Dホイールって、手作りできんの…?
私は不思議に思ったが、その子供たちのひたむきな目に、心が温かくなった。
きっと、そのお兄ちゃんは、子供たちの面倒見がよくて、すごく優しいんだろう。
そしてその優しさを受けて育つ子供たち。
『やっぱり、これ、あげるよ。』
「い、いいの…?」
『うん。売ってお金にしてもいいし、お兄ちゃんのDホイール作りに役立ててもらってもいいし。』
「お姉ちゃん…!あ、ありがとう!!」
「ありがとう!!」
私はそのチップを子供たちに渡した。
顔を輝かせて喜ぶ子供たち。
あー、いいことしたなぁ。
なんて思ったのもつかの間。
「よぉ、ボク〜。いいもの持ってんじゃん。ちょっと兄ちゃんにも見せてくれよ〜。」
「!?」
『!?』
またいつもいつも同じような…!!
ガラの悪そうな男2人が、子供たちに話しかける。
「だ、だめ!これはお兄ちゃんの……」
「そんな意地悪言うなよ〜。おとなしく見せてくれたら、怖いことしないぜ〜?」
『ちょっと!』
「あ?」
『そのチップは私がその子たちにあげたやつなのよ!そんな小さい子たちから無理やり脅しとろうなんてサイテーね!』
私は子供たちをかばうように前に出た。
…つい、やってしまった。
この前も、京介のいないところでこんな男に絡まれて怖い思いしたんだった。
「なんだこの女…っていうか、お前もガキじゃねえか。」
『うるさい!ガキはガキでも将来有望なのよ!』
「そんな風には見えねーが…将来有望なんだとよ。おい、こいつもそのコンピューターチップと一緒に売り飛ばそうぜ。」
「チップのが高くついたりしてな!ぎゃははは!」
『い、言わせておけば…!デュエルよ!!』
「へぇ。俺たち2人を相手にしようってか!」
「お、お姉ちゃん…!」
『な、なせばなる!なさねばならぬ!なにごとも!』
私はデュエルディスクを構える。
男たち2人も、嫌な笑みを浮かべながらディスクを構えた。
そういえば、完全に私、調子乗ってたけど…
京介のいないとこで人とデュエルするの初めてだった!
しかも、2人相手なんて…!
大の大人2人に挑むなんて、正直無謀だった。
私もモンスターたちは次々を破壊され、私はダメージを受けていく。
『っきゃぁぁ!』
「威勢がいいのは口だけかよ!これで終わりだ!」
『っ!!』
相手の攻撃を喰らい、私のライフは尽きてしまった。
『な、なんてこと…!』
私は膝をつく。
負けたことなんて、京介以外には一度もなかったのに…!
「けっ。たいしたことねーくせにイキがりやがって!このコンピューターチップはもらっていくぜ!」
『……』
子供たちが私のもとへ駆け寄る。
「お姉ちゃん!」
「大丈夫?!」
『…ふええ、くすん…』
負けたことが悔しくて。
子供たちを助けてあげることができず悲しくて。
しばらく流していなかった涙があふれてきた。
すると…
「誰だ!子供たちをいじめるやつは……って、お前が泣いてんのかよ!」
『ふぁ!?』
オレンジ色の髪をした元気な男の子が姿を現した。
「子供たちが迷子になったって聞いて、心配してきてみりゃ…おい、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん聞いて!お姉ちゃんは悪くないの!」
「お姉ちゃんはぼくたちを助けようとしてくれて…」
『ふえっ。ふえっ。』
泣く私に変わり、「お兄ちゃん」に事情を説明する子供たち。
その「お兄ちゃん」は、ため息をつくと私に手を差し出す。
「大丈夫か?」
『う、うん…』
私はその手をとり立ち上がった。
「俺はクロウ。お前は?」
『ろじこ…』
「そうか。ろじこ、子供たちを守ろうとしてくれて、サンキューな。」
『いや、でも、ちゃんと守りきれなくてごめんね。』
「チップのことは残念だが、お前たちが無事で何よりだぜ!…しっかし、ギンガ、ヒカリ。勝手に遊びに出て行くなよ。今回みたいに、外には怖いことがいっぱいあるんだからな。」
「ごめんなさい、クロウ兄ちゃん。」
「よし、帰るぞ。ろじこも、帰るとこがあるんだろ?」
『そ、そうだ!京介!』
「気をつけて帰れよ。じゃ、またどこかで会ったらよろしくな!」
『うん、バイバイ!クロウ!』
クロウに別れを告げ、京介を探しに戻る。
…思い出すだけでも悔しい、敗北。
私も、しっかりと守らなくちゃいけないものを守り通せる、力が欲しい。
強くなりたい。
私は、強く拳を握りしめた。
しかし、このとき出会った少年が、のちにかけがえない友になることはまだ想像もしていなかったのである。
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