辺境の地、クラッシュタウン




そんなに自分を責めないでよ。

大丈夫、今度は私が助けるからね。











辺境の地、クラッシュタウン











ワァァァァァ…!!


「誰が、一体誰がこんな展開を予想できたでしょうか!!クラッシュタウン出身!不屈の根性でここまで昇りつめた!!」


MCにより、会場も盛り上がる。


「その名もーーー」










「…ろじこ…


…ろじこ…!!」



うーん…



「……ろじこ!!!」



ぱち



「起きんかこのバカモンがーーー!!」
『ひいいいいっ!!!!』


クラーゾおじいの一喝で目が覚める。
このネボスケが…云々という小言が寝起きの私にはキツイ。



『せっかく夢の中でヒロインだったのに…!』
「どうせまたD・ホイールで活躍する夢でも見たんじゃろ。」
『ああネオ童実野シティが、観衆が、強敵が私を呼んでいるわ…!』
「寝言は夢の中でだけ言っておれ。」


そう言い残すと、クラーゾは鉱山へ仕事へ出かけて行った。








『…いいじゃん、夢見たって。』


私は今、クラッシュタウンで生活をしている。

ダークシグナーとの戦いが終わり、京介はサテライトへ帰ってきた。
帰ってきた京介は、ダークシグナーの記憶がないと思っていたが、どうやら自分が今までしてきたことを思い出したようで、自責の念か、しばらくした後、旅に出ると言い残し、サテライトを去ってしまった。


「ろじこ、聞いてくれ。…俺は、サテライトを出る。」
『…!』
「ダークシグナーだった俺は、サテライトの人をを、シティの人を傷つけた。そして、遊星や、お前を。その罪は重い。」
『そんな…!でもこうして京介は戻ってきたじゃない!罪があるならこれから償っていけば…』
「…俺は、自分が許せない。決めたんだ、俺は、ここを出る。」
『…帰ってくる?』
「・・・」
『嫌…そんなの…やだ。』
「俺の死に場所は、サテライトじゃねえんだ。」
『京介と、別れるなんて…』
「別れるわけじゃねえだろ。俺はいつまでもお前が好きだよ。」
『でも、もう会えない…』


私の目からは既に涙が溢れ、京介も泣きそうな顔をしていた。
京介は苦虫を噛み潰したような顔をすると、ごめんな、と一言だけ言い、私のみぞおちに拳を入れた。


『うっ…!』
「元気でな…」


薄れる意識の中で、京介の悲しそうな顔と温かい唇の温もりを感じた。


その出来事を、昨日のように覚えている。
思い出すたび、悲しみと後悔がこみ上げてくる。


そういえば、京介は決してDVをするような人間ではなかったので、あの別れ際のみぞおちに入れられたのが初めての暴力だった。

いや、もっとこう、私の知らないところで旅立つにしても、普通に寝てる間とかに出ればいいものを、何故みぞおちに入れて意識を飛ばしたんだ。

…地味に腹立ってきた。



そして、遊星、ジャック、クロウはというと、彼らもサテライトを出た。
今はシティでWRGPを目指しそれぞれ頑張っている。


私も京介がサテライトを出てからは、まるで燃え尽きた灰のように、何もする気力がなく日々を無駄にしていたが、自分の道を見つけるべく、サテライトを出ることを決め、ここクラッシュタウンに来た。

クラーゾとは私の祖父だ。
私は両親のこと、生まれのことはあまり覚えていないが、父母もここで過ごしていたらしく、どうやらわたしはクラッシュタウン出身だったらしい。

物心ついたときはサテライトにいたので、クラッシュタウンの記憶は全くないのだ。

親類がクラッシュタウンにいると知ったのは最近のことで、その祖父を頼り移住した。









私も出かけよう、と家を出る。
ちょうどそこへウエストとニコが遊びにくる。
私はこの姉弟とは近所のつきあいで、クラッシュタウンの中では年が近いのもあり、最近よく一緒に遊ぶようになった。


「ろじこ!おっはよー!」
『おいっすー!ウエスト、ニコ!』
「おはよう、ろじこ。」
「今日はカードショップがついにオープンするんだぜ!先に秘密基地に行ってるよ!」


秘密基地では、もちろんのこと、デュエルをしたりして遊ぶ。


『んー!やっぱ秘密基地いいよね!私も前はテキトーな廃墟をアジトなんかにして住み着いてたんだよねー!』
「え、ろじこ汚い…」
『ちょ、ニコ!ひどっ!』
「ろじこかっけー!」


ふと、サテライトのことを思い出すのだ。


「よぉ。」
『トオル。』
「トオル兄ちゃん!」


トオル、とは、私の隣の家に住んでいる私より少し年上の、私たちのお兄ちゃん的存在である。

D・ホイールを自作することに熱中している。


「聞いてくれ!ついにD・ホイールが完成したんだ!」
『まじで!』
「すごいわね!!」
「トオル兄ちゃんすげー!」


本当に全部自分で作っちゃったんだ!
遊星みたいだなぁ…


トオルが実際にD・ホイールで走るのを見に外へ出る。
やはり完成したばかりの自作品というだけあり、走行にはやや危なっかしい部分もあるが、ちゃんと動いている。


「ろじこも乗ってみるか?」
『えっまじで!いいの!』



クラーゾおじいは、私がD・ホイールに乗ることをあまりよく思っていない。
怪我が心配なのだそうだ。

そして、私がサテライトで過ごしていたことを知らず、何故か、シティに住んでいたと思っている。

特に女の子ということで、大切にされているが、その孫がサテライトでブイブイいわせて、しかもそこで男とイチャイチャしてたことを知ったら、これは老体にかなりのショックだと思い、私はシティ出身ということになっている。

ごめんね、クラーゾおじい。
あなたの孫はサテライトで恐れられた、チーム・サティスファクションの紅一点です…てへへ


トオルに勧められ、D・ホイールに乗り、エンジンを入れる。


うわぁ…懐かしい…!!





「お前…すごいな!」
「ろじこすっげー!トオル兄ちゃんより速かったよ!」
「ばっばか!そんなことごあってたまるか!」
『いやー、やっぱいいわぁD・ホイール!』




翌日、朝イチからトオルが私の家を訪ねてきた。


『おはーす…』
「ろじこ!俺はシティにいくぜ!」
『え!!』
「早くシティでライディングデュエルをやりたくてウズウズしてるんだ!!」


シティ…ライディングデュエル…


…遊星、ジャック、クロウがいるところ!!


「お前も必ず来いよ!待ってるからな!」


そう言い残し、トオルはクラッシュタウンを出た。



『・・・』
「お前もシティに行ってD・ホイーラーになりたいとか言い出すんじゃなかろうな?」
『ひいっ!おじい!!』


背後からクラーゾおじいに声をかけられ驚いた。


「お前には向いとらんよ。行くだけムダじゃムダじゃ。」
『そんなの、やってみなきゃわからないよ。』


だいたい、私だって元D・ホイーラーだし。

…言えないけど。



その夜。


「ろじこ〜、ニコ姉ちゃんいる?」
『え?来てないよ?』
「…ここにもいないか〜。まだ家に帰って来ないんだよ。」
『まじで?…秘密基地は?』





少し、いやな予感がする。


+continue+




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