初めてのデッキ
てんぷれ1
「えっ、お前デュエルしたことねぇの!?」
『ない!いや、ある!でも自分のデッキは持ってない!』
「ろじこ、お前よくそんなんでサテライトに来たな…」
初めてのデッキ
前にも言ったが、私の両親はライディングデュエリストだ。
つまり、デュエルでブイブイ言わせていた男女の間に生まれた、いわばサラブレッドが私である。
そんな私、小さい頃からお父さんやお母さんとデュエルをして遊んでもらっていた−−−
『よーし!私は銀の弓矢を装備したデュミナスヴァルキリアでお父さんに攻撃〜!』
「ふふ、甘いぞろじこ。お父さんは罠カードを発動だ!」
『あーっ!』
『お母さんのデッキ借りたのに負けちゃった…』
「ろじこ、デュエルは攻撃力だけじゃ勝てないぞ。ろじこ、手札には装備魔法の他にも、いろんな魔法や罠カードがあったろう?」
『だって、使い方よくわからない…』
「はは、それは困ったな。魔法、罠、そしてモンスター効果、全てが合わさってこそ、楽しいデュエルができるんだ!」
『うーん、よくわかんないや。』
「うん、ろじこにはまだ早いかな。」
「大丈夫よ。あなた、ろじこ。いつかきっと、ろじこは素敵なデュエリストになるわ。」
『お母さん…!』
「そうだな。次のろじこの誕生日になったら、ろじこにデッキをプレゼントしようか。」
『私のデッキ…!?』
「それはいいわ!ろじこも、自分のデッキを持てばもっとデュエルが楽しめるわよ!」
『わぁ…!楽しみ…!!』
あれから時間は経ち、もうすぐ私の誕生日を迎える。
でも、今は……
「…おい……おい、ろじこ?」
『えっ!あ、うん!』
「話聞いてたか?」
『ご、ごめん!ボーっとしてた…!』
鬼柳の呼びかけで我に返り、そんな私に鬼柳は短くため息をつく。
「もう分かってるだろうが、ここサテライトじゃデュエルがルール。デュエルの強い奴が生き残れるんだ、大人子ども関係なくな。」
『う、うん…』
「っつーわけで、まずろじこにはデュエルができるようになってもらわねぇとな。」
『で、できるかな…』
「大丈夫だ。俺がきっちり教えてやるからな!」
任せろ、と自分の胸を叩いて笑う京介に、私は嬉しくなった。
「とりあえずだ、今日のお前の仕事はこのアジトの掃除な!」
『汚いもんね!』
「おま、それは言うなよ!…まぁ、任せたぜ?」
『あい!』
「デュエルできねぇうちは、くれぐれも勝手に一人で外に出るんじゃねーぞ?」
『わ、わかった…!』
「おう。じゃ、ちょっと俺は出てくる。」
『あ、気をつけてね!』
「あぁ。」
京介はデュエルディスクを腕にはめ、準備をするとアジトを出た。
デュエルで稼ぐこともあるが、普段はジャンクを漁り、使えそうなものを集めては売りお金にしているらしい。
モノ集めなら私でもできると思ったが、そのジャンクを巡りデュエルで争うこともあるそうだ。
とにかく、私は今できることをしよう…
私はボロ布を取り、掃除を始めた。
そして、しばらく時間が経った。
鬼柳が、帰って来ない。
確かにこの住処には家具なんてほとんどないが、長い間掃除されていなかったため、なかなか時間を要した。
しかしその掃除もとっくに終わっている。
窓から外をみると日が暮れていた。
『きりゅー…』
大丈夫かな?
また、前みたいに大勢の大人に囲まれて追い詰められていたら…
心配になり、私はアジトの外に出た。
その瞬間。
『んぐっ!!』
私は何者かに背後から首根っこを掴まれた。
「こら、お前。」
恐る恐る目だけで背後を見ると、少し起こった顔の鬼柳がいた。
『き、きりゅー…!』
「言ったよな?一人で外に出んなってよ。」
『フ、フラグかなと思って…』
「何のだよ!」
『いや、だって…日が暮れてきたのに鬼柳帰って来ないし、大丈夫かなって……』
「ったく…まだ夜にもなってねえのに、しょうがねぇ奴だな。」
『ご、ごめんなさい。』
鬼柳は私の首根っこを掴んだまま、アジトに入る。
「俺が負けるわけねぇだろ?お前は大人しく小屋でエサ待ってろっての。」
『い、犬…!?』
「はは、ほらよ。」
『!』
目の前に出された、カードの束。
『こ、これは…!』
「とりあえず即席だが、お前にやる。」
−−次のろじこの誕生日になったら、ろじこにデッキをプレゼントしようか。
−−ろじこも、自分のデッキを持てばもっとデュエルが楽しめるわよ!
『……お父さん、お母さん、プレゼント……』
鬼柳がジャンクの中から一生懸命探してくれたカードは、きっと天国の両親からのプレゼントだ。
「ん?どうした、ろじこ?」
『…え?あ、ううん、何でもない。それより、鬼柳ありがとう!私、頑張ってルール覚えて強くなるからね!』
「おう、期待してるぜ。」
私は鬼柳にもらったデッキを、胸に抱きしめた。
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