旅立ち!再会、脱出、謎の脅威*1
何度意識を手放して、何度目覚めるのか。
もう、何が夢で現実なのかわからなくなるほどに。
旅立ち!再会、脱出、謎の脅威*1
『んぅ…』
目が覚める。今度は、私は白い清潔感のある、しかし簡素な部屋のベッドに寝ていた。
自分はアルカディアムーブメントの団服を着ている。
ああ、ここはアルカディアムーブメントね。
ドンドンドン!
隣の部屋から、激しくドアを叩く音と叫び声が聞こえる。
「ちょっと〜!開けて〜!あ〜け〜て〜!こんなところに閉じ込められるなんてひどいんだから〜!」
…この声、どっかで聞いたぞ…?
確か、私がアルカディアムーブメントに入ってすぐの任務のとき、取材されそうになったよな…
「誰か助けて〜!ジャック〜、た〜す〜け〜て〜!」
!
ジャック…?
この人、ジャックを知ってるの…?
とりあえず、記憶を取り戻した今、こんなところで燻ってる私じゃないわ!
ここを出なきゃ!
ガンッ!
…ドアには外から鍵をかけられている。
ほぅ、鍵ね。
私はトルンカの杖をかざした。
すると、やはり鍵がはずれてドアが開いた。
私がドアを開けて部屋から廊下に出ると、隣の部屋から声が聞こえる。
「ちょっと!どうやって鍵を開けたのよ!」
『え、私に話しかけてる!?』
「そうよ!あなた、隣の部屋にいた人でしょう!?扉を開く音が聞こえたんだから!」
『するどいわね!』
「どうやったのか知らないけど、私も出して〜。」
『…頼むから騒がないでよ!見つかると面倒だからね!』
はい、とトルンカの杖をかざす。
「ありがとう!助かったわ!」
『いえいえ。』
「あれ?あなた前にどこかで…」
『取材されそうになったからね。あのときは騒がしくてそれどころじゃなかったけど。』
「フォーチュンカップ会場にいた人ね!…でも、アルカディアムーブメントのデュエリストが、どうして独房に?」
『あー…ドSなのよ、うちのボス。』
「なるほど…これはスクープね!編集長が好きそうな卑猥なネタの予感よ!」
『は、はは…』
「取材といきたいところだけど、こんなところにいたらまた捕まっちゃう!とにかくありがとう!それじゃぁね!」
『また捕まらないようにね!』
あの人、トルンカみたいだよなー…また捕まらなければいいんだけど。
『・・・ん?』
私は足元に、「渚ちゃんのマル秘メモ」と書かれた紙を見つけた。
『元キングであるジャック・アトラスと治安維持局のゴドウィン長官は、二人ともサテライト出身だった!…って、なにこれ?』
確かにジャックは私たちとサテライトで暮らしてたけど…元キングって何だ??
そういや、フォーチュンカップではジャックと遊星が戦ってたっけ。
このメモの持ち主もどこかへ行ってしまったし、いまいちピンとこないまま、取り敢えずメモをポケットにしまった。
えーと、頭がよく回らないけど、ここは冷静に考えて…
確か、龍可ちゃんがアルカディアムーブメントに捕らわれているって言ってたよな。
私が今すべきことは、龍可ちゃんを探して、とりあえずここから脱出することね。
ここの建物は階段がなかったはず。
つまり、どうしてもエレベーターには乗らなくてはならない。
エレベーターで1階に降りたら、シンプルにそのまま正面ゲートから出るしか脱出の道筋はない。
龍可ちゃんを探そう。
独房は、もう1ヶ所、廊下の向こうにあったはず。
私が廊下を通って行こうとすると。
『リキッド!?リキッドだ!なんか久しぶり!』
リキッドが廊下に立っていた。
見張りだろうか?
しかし、彼は私と沖田とチームを組んで指令や訓練をこなしてきた仲だ。
「…おい、ばるこ。どこに…行くつもりだ?こっちに…来い。」
『え?いたっ、ちょ、リキッド!何するのよ離してよ!』
「・・・」
リキッドの様子がおかしい。
いつもの、やれやれ感やそれでいていちいち絡んでくる気さくさがない。
ってゆーか怖ぇぇぇ。
『いったぁ…!』
「お前はここにいろ…」
『っくぁ〜、ちくしょうリキッドめー!』
私は独房に連れ戻されてしまった。
ふん!何度だって脱出してやるわよ!
私はトルンカの杖でドアを開け、こそこそと廊下を渡ると、リキッドの近くにあった銅像を倒した。
ドーン!
大きな音がして銅像は倒れた。
私は別の銅像の影に隠れた。
「またサイキックの波動で倒れたか…?」
リキッドは、元に戻さないとディバイン様がうるさいとか何とかつぶやいて、倒れた銅像の方に近づく。
銅像は重く、リキッドはなかなか銅像を立て直すことができない。
この隙に…!
さらばよリキッド!
少し廊下を進むと、1つの扉の前で、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「…ばるこ?」
『!』
「そこにいるのは、ばるこなの?」
『そうよ!この声は…龍可ちゃんね!』
「来てくれたのね!ありがとう!」
『おっけー!じゃぁこのトルンカの杖で!』
私はトルンカの杖でドアを開けた。
中から安心した表情の龍可ちゃんが出てくる。
「ばるこ!助けに来てくれてありがとう!」
『ここにいたのね、良かったー!無事だった?』
「ええ!…私、ばるこに助けてもらってばっかりね。」
『そんなの。仲間でしょ?当たり前よ!』
親指をグッと立てウインクしたが、龍可ちゃんはさらに困った顔をする。
『どうしたの?』
「さらに迷惑をかけることになるんだけど…」
龍亞くんという、龍可ちゃんの双子の兄も捕まっているらしい。
私たちは龍亞くんを助けに行くことにした。
『だーいじょうぶ!何人だって助けるわよ!』
「ありがとう!…ふふ、ばるこって遊星みたい。」
『えっ?』
「あ、遊星っていうのは…」
『龍可ちゃん、遊星を知ってるの?』
「え、ええ…あ、遊星!」
噂をすれば彼が、というのか。
龍可ちゃんが名を呼ぶ方を向くと、青いライダースジャケットを羽織った遊星が立っていた。
「龍可、無事だったのか!」
『遊星!』
「!!…お、お前は!ばるこ!!」
『やーん!感動の再開…!』
「…近くに見張りがいる。ひとまずそこの部屋に入ろう。」
見張り…沖田か。
私たちはとりあえず、龍可ちゃんが捕まっていた部屋に戻る。
『ふぇっ、ふええっ…ゆーせー!会いたかったー!』
「ばるこ…!」
私は感極まって遊星に泣いて抱きつく。
『会いたかったー!会いたかったー!会いたかったー!』
「ばるこ!お前無事だったんだな!!」
『いえす!!!』
「お前…相変わらず元気だな。」
『あい。』
「お前…突然いなくなって、みんな心配したんだぞ!」
遊星が強い口調で言う。
あまり感情露わな話し方をしない遊星がそう言うので、私はちょっとびっくりした。
『ご、ごめんなさい…』
「…その服、アルカディアムーブメントのだよな?」
『浮気じゃないんです、心はいつでもサティスファクションにあるんです。』
「どうしてお前が?」
私はいきさつを話した。
京介がセキュリティに捕まり、悲しみにくれていたところにディバインがやってきて洗脳され、無理矢理ここに連れてこられたことを。
「なんだって!?洗脳されていた!?」
「そうだったの!?それにしてもなんで…」
『悲しみにくれていた私が悲劇のヒロインらしく相当魅力的だったから。』
「そっか!ばるこも精霊世界と繋がっているから目を付けられたのね!」
『う、うん…そう…』
それから龍可ちゃんは、不思議そうに私と遊星を見る。
「ところで、遊星とばるこは知り合いなの?」
『オトナな関係よ!』
「おいばるこ、純粋な龍可の前で変なこと言うな。龍可がばるこみたいになってしまったら可哀想だ。」
『ひどいよね、遊星。ひどいよね、私に。』
「龍可、ばるこは昔俺がサテライトにいたころの仲間だ。」
『おうよ!』
「へぇ、そうなんだぁ。」
「龍可こそなぜばるこのことを知ってるんだ?」
「ばるこには、精霊世界で出会って助けてもらったの。」
「そうだったのか…」
サテライトとシティ、それでも世界は狭いよね。
てゆーか遊星はいつのまにシティに出てきたんだろう。
「しかし、ばるこにそんな力があったとはな。…積もる話もあるが、今はここを脱出するのが先だ。」
『遊星、最後に…』
「ばるこ、なんだ?」
『遊星、いつの間に満足ジャケット脱いだのよ?』
この裏切り者おおお!って言ったが遊星に無視された。
まじか!
「俺は十六夜を助けに来た。」
『十六夜…アキ?』
「ああ。一緒に龍亞を助けたいところだが、大人数では目立つ上に時間がかかる。二手に分かれて行動しよう。」
『おっけー!』
「ばるこ、龍亞を助けたら、二人を連れてビルの外まで出てくれ。」
『あいあいさー!』
遊星は、思い出したように、私にエレベーターの鍵をくれた。
なんで持ってるんだ!
メ蟹ックだからかと思ったが、どうやら遊星の仲間の雑賀さんが作ったらしい。
「あと…」
『私のデッキ!!』
「お前がいなくなったあと、イツキが拾ったんだ。」
『イツキ…ありがとう。そうね、イツキも心配してくれてたんだろうなぁ。会いたいな…クロウ、ジャック、京介…』
「…落ち着いたら、無事を伝えに行こう。」
遊星は十六夜アキを助けに、走ってドアの外に出て行った。
私は龍可ちゃんに先立って、龍亞くんを助けに部屋を出た。
外には、やはり見張りの沖田が歩き回っている。
彼も久しぶりだが、見つかったら怒られるんだろーなー。
ええい!必殺ばるこ走法でくぐり抜けてやるわ!
「…お待ちなさい。」
『ひぃ!』
「走る音がすると思ったら…ばるこさんでしたか。どこに…行くつもりですか?こちらに…来てもらいましょう。」
『やだー!離してよー!沖田ああ!』
あっさり見つかり、元の独房に戻されました。
ちくしょーなんでこう面倒なのよ!
私は急いで龍可ちゃんのいる部屋に戻った。
今度はもっと静かに行くわよ!
リキッドとすり抜け、沖田をかわし、私は龍亞くんがいるであろう部屋の扉の前についた。
「ばるこ!きっとこの部屋だわ!」
『おっけー!じゃぁこの杖で…』
私がトルンカの杖で鍵を開こうとしたそのとき、背後から男性の声がした。
「おやおや、これは困ったな。」
『!!…ディバイン!』
「侵入者に会いに来たら、脱走者を見つけるとは。」
『うるさーい!よくも洗脳してくれたわね!』
「貴様ら精霊世界と繋がっている者を逃がすわけにはいかないのだよ。」
『ふん、知らないわよ!私は龍亞を助けて出る!アルカディアムーブメントを抜けるわ!取り敢えずデュエルよ!』
「ふっ、私は侵入者の駆除に行かねばならん。…こいつはお前らに任せたぞ。」
ディバインの後ろから、リキッドと沖田がやってくる。
「はい、ディバイン様。仰せのままに。」
『ちょ、リキッド!沖田!』
「目標を確認、全力で排除します。」
目は笑ってるけど口が笑ってない、いつもの沖田の腹黒スマイル。
ではなく、今日は目も笑ってないやべぇこいつ!ガチだ!!
『なんでよー、沖田!一緒にチーム行動した仲間じゃんか!』
「ハッハッハ!二人にはさっき強力な洗脳を施した。」
『!この二人にも洗脳を…』
しかも、聞けば私や龍可に、解けない強力な洗脳をするための実験台にしたそうだ。
リキッドや沖田は、少しでも一緒に指令や訓練をこなした仲間だ。
『…なんで私の周りの仲間は傷つけられてばっかり…ディバイン、許さない…!』
「ふん!こいつらはデュエルの腕前も冷酷さも、以前とは比べ物にならないぞ。安心しろ!ばるこ、貴様もすぐに洗脳してやるからな!ハッハッハ!」
ディバインは高笑いしながら去って行く。
目の前にはデュエルディスクを構えるリキッドと沖田。
ここは、やるしかない。
「くっ…デュエルは避けられないようね。…ばるこ?」
『龍可、私この二人を助けたい。』
ディスクを構える私を見る龍可ちゃん。
『力を貸してくれる?』
「もちろん!」
『ありがとう!』
ここにきて初めての、龍可ちゃんとのタッグデュエル。
『いぇい!』
「やった、ばるこ!」
私たちはリキッドと沖田のタッグを下した。
リキッドと沖田は頭を抱えかがむ。
「うぅ…」
『リキッド!沖田!』
「…ばるこ!なぜ俺たちはこんなことを?」
『ディバインの洗脳よ。』
「操られていただと!?…そうか、研究室で妙な装置を付けられて…」
『リキッドと沖田は、ディバインの洗脳の実験台にされてたのよ。』
「正直、こんなところにはもういたくないですね。」
『でしょ?だから、私たちは今からここを脱出するところ。』
良かった、二人の洗脳は溶けたようだ。
私と龍可ちゃんは安堵の表情を浮かべる。
「そうと決まれば、さっさと逃げようぜ。ばるこはどうするんだ?お前たちはディバインに狙われてるんだろう?」
『この部屋に、この子のお兄が捕まってるの。助けたらエレベーターキーは持ってるから、それで1階に出て逃げるつもり。』
「それなら俺たちも手伝う。こんなところからは早く逃げ出すべきだ。」
『リキッド…!』
「そうですね。まずはディバインを油断させるため、二人を捕まえたという嘘の報告をしてきます。それから1階で待っていますから、ばるこさんはその子のお兄さんを助けたらきてください。」
『素敵メガネ…!』
「沖田ですよ。」
『沖田…!』
「ばるこさん、また後ほど会いましょう。」
私たちは後で落ち合う約束をし、二手に分かれた。
+continue+
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