ダイダロスブリッジ
B.A.Dエリアにあるダイダロスブリッジ。
未完成のまま古く錆びているが、ある一人の男の伝説の残る橋だ。
ダイダロスブリッジ
「そう、その男は諦めず、橋を作っていった!」
「初めは無理だと見ていたサテライトの住人も、いつしかこの男なら成し遂げる、そんな思いを抱くようになっていった!」
「しかし!しかしだ!悲しいことに、セキュリティが男に目を付けた!…おい、ここから大切だからまじでちゃんと聞いとけよ!」
「セキュリティに追い詰められた男には、二つの選択肢が残されていた!」
「セキュリティに捕まって一生を牢獄で過ごすか、それとも…」
「生きたまま伝説になるか…!」
「その男は…」
「翔んだ!!!!!」
「誰にもとらわれないその男は、D・ホイールに乗り未完成のダイダロスブリッジから海へ翔んだんだ!」
「その男の行方を知るものはいない…ただ、俺の心には間違いなく、その男は生きている…!」
『うん、遊星とジャックも同じこと言ってた。多分そのうちクロウも語ってくるなこりゃ。』
「お前…せっかく俺がいい話をしようと思ったところをよぉ…」
未完成のダイダロスブリッジの一番端に京介と並んで夕日を見ている。
一歩間違えば海に落ちてしまうが、ここに座るとサテライトのどんよりとした闇に飲み込まれずにすみそうな気がしてくるのだ。
そんなダイダロスブリッジの黄昏に、京介は感動する話をしたかったようだが、全く同じセリフを私はもうすでに2回も聞いていた。
そうか、サテライトとシティを繋ごうと動いた男の伝説は、サティスファクションのみんなの胸に生きているんだね、素晴らしいわ。
「伝説となって残る…くぅ〜、男のロマンだぜ!」
『大丈夫、京介は巷で有名な、サティスファクションの変態リーダーで伝説になってるから。』
「んだよそれ…満足できねえぜ…」
しかし、何を言っても、夕日の色に染まる京介の横顔はかっこいい。
私はダイダロスブリッジに二人でたそがれるとき時間と景色が大好きだった。
ダイダロスブリッジの端は高さもかなり高くなっているので、サテライトを一望することができる。
ふと、セキュリティに連行されるサテライト住人が目に入った。
『あの人…セキュリティに連れていかれるね。』
「窃盗か何かだろ。ったく、ロクでもねぇ場所だぜ。」
『あ…女の人が追いかけてる。捕まった彼氏を必死に呼び止めてるみたい。…かわいそうに…。』
セキュリティに連れていかれる男性を叫ぶように呼ぶその女性は、セキュリティに阻止され泣き崩れる。
男性も女性に何か言っているが、虚しくも男性は、女性を残してセキュリティの建物に連れていかれてしまった。
無意識に京介の手を握る。
「…ばるこ?」
『私、もしこの先京介が猥褻罪か何かで捕まっても会いに行くね!』
「なんで猥褻罪なんだよ!…だいたい、セキュリティに捕まったら会えねえだろーが…」
『そう、なんだ…じゃぁ、私も翔ぶわ。』
「はぁ!?」
『ここから飛べば、セキュリティの牢獄からも見える気がする。』
「本気かよ…」
『京介が捕まったらね。』
「絶対させねえよ。」
京介は握っていた手を離し、わたしを抱きしめた。
『ダイダロスブリッジ…ここから飛べば』
今、セキュリティに捕まった京介からも私が見えるかもしれない。
過去の会話を思い出した。
錆びたダイダロスブリッジと夕日は、あの日も今も変わってはいなかった。
わたしの決意もまたーーー
+continue+
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