土曜日の昼下がり





君がいれば、戦える―――










土曜日の昼下がり










「なんだ。もうマスター・オブ・ドラゴンナイトは使っていないのか。」


ろじこは今、ブルー寮、万丈目の部屋に来ている。


『うん。この前、禁止カードリストをチェックしてたら、デビル・フランケンがリストアップされてたの。』
「そうか。さすがに戦士族デッキにブルーアイズ3体は無理だな。」
『でしょー??万丈目くんはドラゴン族使ってるけど…』
「フッ。俺にはこいつがいるからな。」
『だね。』


万丈目は光と闇の竜を手に取った。
しかし、精霊が出てくる気配は無い。


「……チッ…」


ろじこに気付かれないように、万丈目は小さく舌打ちする。
光と闇の竜が、邪魔はしまい、そう言っているように感じられたからだ。


『でも、相変わらずデュエルは申し込まれるんだよね。』
「何っ!?…それは、究極竜騎士を見るためか??それとも…」
『う、うん…その、恐らく、両方…』


万丈目は不機嫌そうな顔をする。
前者のような、純粋に究極竜騎士を見たいという心理は理解できても、後者――デュエルに勝ち、ろじこに交際を申し込むのが目的である――について、彼は少なからず怒りを覚えた。


『そのうちきっと、私のデッキも知り尽くされてくると思うの。』
「そうだな。相手もいろいろ研究して、対策も練ってくるだろう。」
『既にみんな、コマンド・ナイト対策に、スキルドレインとか使ってくるんだよね。』
「よく今まで勝ててこれたな。」
『ううん。最近はホントにギリギリ危ないとこで勝てるって感じ。』


明日香や三沢は、ギリギリの方がデュエリストとしてのレベルは上がると言う。
しかし、ろじこにとっては、気が気ではないのであった。


『だからデッキを見直そうと思って…』
「それで、ゆにばーすは俺に手伝えと??」
『手伝うっていうか…アドバイスもらいたいなーって。どちらにしろ同じ??』
「フッ、まぁいいだろう。」
『ホント!?』
「あぁ。」
『やった、ありがと!!』


心底喜んでいる様子で、ろじこは万丈目にお礼を言った。
万丈目のアドバイスは的確であって、端的でくどくない、さすがブルー生だと思わせるものがある。


「ゆにばーすはデッキの枚数は何枚にしたいんだ??」
『今と同じ50枚が良いかな。』
「そうか。じゃぁこのカードよりも、こっちのカードの方が―――」




「よし、こんなものだろう。」
『やったぁ、完成ーッ!!』


ろじこのデッキが完成した頃、既に日は落ちかけていた。
ろじこは窓の外を見てため息を漏らす。


『わぁ、もう夕方…ごめんね、すごい時間かかっちゃった。』
「いや、構わん。どうせ俺も今日は暇だったからな。」
『ホントに、ありがとう!!これで月曜日からまた私、頑張るねッ!!』
「フッ、せいぜい負けんようにな。」
『ダイジョーブ!!』


親指をグッと突き立ててろじこは笑う。

『じゃ、また…』


また、月曜日ね――そう言おうとした瞬間、明日香の言葉がろじこの脳裏に浮かぶ。


”もう少し近づいても良いんじゃない”


『あ、あのッ!!』
「な、何だ。」
『良かったら、散歩しない??』
「散歩、か??」
『う、うん。デッキ構築でずっと室内にいたから、気分転換にでも…』
「フッ…喜んで。」
『良かったー』


ホッと胸を撫で下ろすろじこ。
それが微笑ましくて、万丈目は顔の表情を緩めた。


『じゃぁ、行こう!!』
「あぁ。」


二人は並んで寮を出た。
途中、何人かのブルーの男子生徒とすれ違った。
彼等はみな、ろじこと万丈目が並んで歩くのを半ば驚き、半ばやっぱりなという反応を示していた。


『ブルー寮から出て来たとき、何人かとすれ違ったけど…まさかクロノス教諭にチクったりしないよね??』
「安心しろ。例えそうされても、俺が揉み消してやる。」
『う、うん…(何する気なんだろう…)』


しばらく二人が歩いていると、岩場に差し掛かった。
初めて、ろじこと万丈目が出会った場所である。


『ここは…』
「あぁ。…ゆにばーす、あの時は、悪かった。」
『え??何が??』
「…押し倒して。」
『っ!!』


ろじこはあの時のこと(第2話参照)を思い出し、顔を真っ赤にさせる。


『い、いや、あのっ、気にしてないよ!!ぜーんぜん大丈夫…ッ!!あは、あはははーん』
「その割には動揺しているが。」
『もぅっ、バカぁ!!精神掻き乱さないでよぉ…!!』


半涙目で、ろじこは万丈目の腕をペシペシと叩く。


「わ、悪かった、悪かったから、そう殴るな…!!」
『せっかく忘れてたのにぃ…』
「…忘れるほど嫌だったか??」
『え??』


急に真面目な顔つきになる万丈目に、ろじこは一瞬だけ戸惑った。




『そんな…嫌じゃないよ。ただ、恥ずかしいだけ。』
「そうか…なら良い。」
『うん…って、何が良いの!?まさか、”私=押し倒しても良い”みたいなこと考えてるんじゃ…!?』
「そっ、そんなはずがないだろう!?ただ、お前が気にしていない…というか、嫌われていないのなら……」
『嫌われていないのなら、何??』
「ええい!!自分で考えろッ!!」
『えぇっ!?』


照れ隠しか、一喝すると、万丈目はろじこの数歩先をズンズンと歩く。


『あっ。ま、待ってよ…!!』
「フン、早くしろ。」
『散歩はゆっくり歩くから散歩なんだよ!!』
「ついてこいッ!!これが俺の散歩のスピードだ。」
『も、もうっ!!』


ろじこは小走りで万丈目を追いかける。

「…女子寮はこっちの方だったか??」
『え、うん??』
「散歩がてら…送っていく。」
『ありがと。』


万丈目はそっぽを向いているが、頬が少しだけ赤くなっているのにろじこは気付いた。

これを、不器用な優しさ、と言うのだろうか。


「あら。ゆにばーすさんに、万丈目くん。」
『鮎川先生!!』
「こんにちは。」

女子寮への道で、二人は鮎川先生と出会った。


「二人揃ってどこへ行くの??もう日も暮れるわよ。」
『えへー。女子寮です。』
「うふふ、女子寮は男子禁制よ??」
「いや、俺はゆにばーすを送っていくだけです。」
「そう、仲が良いのね。じゃぁ、気をつけてね。」
『はーい!!』
「失礼します。」


鮎川先生と別れ、また二人は歩き出すと、女子寮の建物が見えてくる。
つまり、今日はもうお別れということである。


『今日はありがとう!!』
「フッ。礼には及ばん。」
『この誰にも知られてない新デッキで、付き合ってくれ!!っていつデュエル挑まれても、バッチ来いって感じ。』
「それはどうだろうな。」
『えぇっ、何で!?』


驚くろじこに、万丈目は一呼吸おいて告げる。


「俺は、ゆにばーすのそのデッキの全てを知っているんだぞ。」


デッキを共に組んだ万丈目には、戦略が筒抜けなので、恐らく確実に、ろじこに勝てる。

――デュエルアカデミアでは、全ての決めごとはデュエルで決める――

つまり、万丈目が他の男子生徒だとすれば、負けたろじこは交際の申し出を断れないのである。


瞬時にそれを理解したろじこは、一瞬ドキッとする。


『万丈目くんなら……良い、よ。』


ろじこが万丈目の顔を見上げると、彼は驚いた表情を見せる。
そしてすぐに、フイッと顔をだけ横に向ける。

互いの頬が赤く染まっているのは、夕焼けのせいか、それとも―――


『…なーんて。大丈夫!!今なら私、誰にも負ける気しないから!!』
「フン。俺に手の内を明かしたからには、そう簡単には勝てないぞ。」
『その時はお手柔らかにー。じゃ、また月曜日ねッ!!』
「あぁ。またな。」


そして二人は背を向け合い、それぞれの帰路についた。





デュエルで、私を、捕まえてくれたら―――


ろじこは振り返り、誰もいない女子寮の門の前から、万丈目の背中をただ見つめていた。





++To be continued++





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