その日は訪れない





平穏な生活なんて―――










その日は訪れない










先日のデュエル以来、ろじこは何かとデュエルを申し込まれることが多くなった。

考えられる理由は2つ。

ひとつは、彼女が融合召喚した、究極竜騎士(マスター・オブ・ドラゴンナイト)。

もうひとつは、割の”俺がデュエルに勝って、お前のハートをゲットしてやるぜ☆”的な考え――当事者の割には自覚がないようだが――が、知らず知らずのうちに広まったこと。


「…大変ね、ろじこ。」
『申し込まれたデュエルは断れないし。』
「普段のデュエルとは違うプレッシャーがかかるわね。」
『うん…ま、デュエルは好きだから良いけどさぁ。』


カフェテリア。
授業が終わり、明日香との優雅な一時を送るつもりであったが、先程もまたデュエルを挑まれ、ろじこは疲れきっていた。


『も、ヘロヘロ〜。』
「よく頑張るわ、ろじこも。早く万丈目くんのものになっちゃえば良いのに。」
『な、なんてことを!!恥ずかしい!!』
「くすっ…冗談よ。良いんじゃない??ここ数日のデュエル詰めで、ろじこのデュエルレベルも上がると思うわ。」
『え、そう??でも相手、結局みんな同じようなデッキで来るんだよね。』


ろじこにデュエルを挑む男子生徒は、たいていデッキに”サイファースカウター”や”スキル・ドレイン”のカード――ろじこが苦手としている――を入れている。


「みんな、徹底的にろじこを負かすためのデッキで来るのね…」
『もう嫌ーぁ。』


ウンザリ、という様子でろじこはアイスココアを口に運んだ。


「ゆにばーすさん!!俺とデュエルしてくれ!!」
『ぶふぅッ!!』


まさかアカデミア唯一のオアシスであるカフェテリアにまで、デュエルの申し込みに来られるとは思っておらず、驚いたろじこはココアを吹き出した。


「それは…ゆにばーすさん、デュエル歓迎の噴水かい??」
『んなわけないでしょ!!』
「ちょっと、私とろじこのティータイムの時にまで邪魔はしないで。」


ろじこの口を拭きつつ、デュエルなら私が受けて立つわよ、と明日香は男子生徒を睨んだ。


「え、あ、いや……すみませんでした。」


明日香のデュエルの腕は誰しもが知っている。
敵わないと思ったのか、男子生徒は謝ると、そそくさと去って行った。


「ふぅ。あれはきっと、究極竜騎士目当てではなく、ろじことの交際目当てね。」
『助かったよ、明日香。…ココアが無駄になったけど…』


残り少ないココアを見て悲しそうな顔をするろじこに苦笑を浮かべつつ、明日香は話を切り出す。


「…私もろじこも、彼のことは苗字で呼んでるけど、」
『彼って…万丈目くん??』
「ええ。下の名前で呼びたくはない??」
『明日香は下の名前で呼びたいの??』
「そうじゃなくて!!今も十分仲が良いけど、ろじこと万丈目くんは友達レベルでしょう??今以上のことはしたくないのって聞いているのよ。」
『友達以上の関係ですることと言えば……』


ろじこは急に、ボッと顔を赤くする。
彼女の脳内では、いくらかプロセスを欠いて、発展していた。


『やだぁ、明日香の破廉恥っっ』
「私はただ、手を繋いだり…って言おうとしただけよ。」
『え??あ、ああ、それね。』
「…一体何を考えていたのかしら??」
『な、な、な、何もぉ??』
「ま、そのろじこが考えていることも含め、今のままじゃ嫌でしょ??」
『うっ…確かに、もう少し近づけないかな、なんて思うけど。』
「でしょう??でも問題は、いつ思いを伝えるか、じゃないわ。」
『え??どういうこと??』
「押して押して、じゃダメなの。要は…いかにして誘うかよ。」
『さ、誘うっっ!?』


今日は友達の家に泊まるって、親に言ってきちゃった。
……あ、寮だから関係ないや。

何か、酔っちゃったぁ〜
……いやいや、未成年だし…

今日は帰りたくないの。
……そんなん私、言えませんからぁぁ!!


以前にもあった、この光景。
今回は心の中でオンエア中!!
しかし、明日香はろじこの考えが手に取るように分かってしまったようだ。


「そういう誘いじゃないのよ。」
『ええっ、そうなんですか!?私ってばてっきり…』
「全く…。誘うって言うのは、相手を振り向かせる、相手からこっちに来させるってこと。」
『お、恐るべし明日香の恋愛テク!!』
「いいえ。これを言っていたのは…マックよ。」
『マックが!!』


マック――レジー・マッケンジーは、デイビット・ラブと共にアメリカ校からやってきた留学生である。


『うーん、マックなら言いそう。』
「ま、そこまでろじこは出来ないと思うけどね。」
『ふふ…言い返せない…』
「ま、私が言いたかったのは、ろじこがチラッと言ったみたいに、もう少し近づいても良いんじゃない、ってことなの。」
『そーなの??』
「明日は休日だし、万丈目くんと過ごしてみたら??」
『マジですか!!』


口をパクパクさせるろじこ。
明日香はまたも苦笑いする。


「何も、デートしろだなんて言わないわよ。デッキ見てもらうとか…ね。」
『そ、そうか…』




『はぁぁ…』


浴室にろじこのため息が響く。


カフェテリアで閉館になるまで話し込んだ――もちろん恋愛以外の話もして――その後、ろじこは明日香と別れて自室に戻った。


『駆け引き、なんて…』


私にはできないよ、とろじこは口が浸かるくらいまで湯舟に沈み、ため息をつくようにブクブクと言わせた。


「ろじこ。」
『うほっ、コマンド・ナイト!!』
「だから、その『うほっ』という驚き方はやめるよう申し上げているではありませんか。」
『す、すみませんでした…でも、まさか入浴中に入ってくるとは……』


突然姿を現したコマンド・ナイトに驚くろじこ。
一日を振り返っても、今日は特に驚きの多い日である。


「明日は休ませてくださいね。」
『カードの精霊という名の仕事を??』
「何ですかそれは…違います。ここ数日は本当にデュエルばかりでしたからね。」
『あー…そうだね。』
「特にあの、サイファースカウター!!何ですか、あのカードは!!」
『あはは』


申し訳なさそうに、ろじこは渇いた笑いを浮かべる。
今日はカードの引きが悪かったのか、負けなかったにしても、よくコマンド・ナイトが破壊された。


「まぁ、明日はそんなことないと思っておきますね。」
『うん??』
「万丈目が守ってくれますよ。」
『なっ、何を…!?』
「ろじこと明日香さんの話がデッキの中に聞こえたものですから…」
『き、聞こえたんじゃなくて聞いたんでしょー!!』
「まぁまぁ。とにかく、明日は私、デッキから出ませんから。邪魔はしません。」


こういうところで、この精霊は妙に気を利かすのである。


『…また緊張して寝られなくなっちゃうじゃん…』


ろじこは小さく、そうつぶやいた。





++To be continued++





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