一つ屋根の下で!!





その手に触れたら、握り返して―――










一つ屋根の下で!!










『う、うん…??』


少しくぐもった声を発し、ろじこは薄く目を開ける。


「…目、覚ましたか。」


ろじこはその声にハッとして起き上がるが、そこではじめて体のだるさを感じる。


「おい!!あまり無理をするな。」
『う…ここ、私の部屋…??』
「ああ。…ビックリしたぞ。いきなり倒れるから…」
『ご、ゴメン。万丈目くんが私をここまで運んでくれて…今までいてくれたの??』
「そうだ。」
『あ…っ!!実技デュエルは!?』
「いや、俺はもう済ました。」
『そっか…あ、私の相手は誰だった??無断で休んで、悪いことしたな…』
「ああ、それなら大丈夫だ。三沢だったから、俺が言っておいた。」
『そうなの??ありがとう。……ハッ!!』
「…どうした??」


ろじこはおそるおそる自分の格好を見る。

パジャマを着ている。


『まっ、まさか……!!』


顔を真っ赤にして万丈目を見るろじこ。すると、ろじこの言いたいことを悟ったのか、万丈目が慌てて弁解する。


「ちっ、違う!!制服からパジャマに着せ替えたのは、天上院くんだ。」
『ホッ…あれ、明日香は??』
「ろじこが休んだ代わりに、2回目のデュエルをしている。」


1回目のデュエルを終えていた明日香はろじこが倒れたと聞き、ろじこの部屋に行って着替えさせた。
そして今は、三沢とデュエルをするためにアカデミアに戻っているのだ。


『そうなの??…まぁ、三沢っちも明日香とデュエルできたことだし、結果良かったかもね。』
「そうなのか??」
『ほら、だって三沢っちは明日香に気があるでしょ??まぁ、緊張はするけど、嬉しいと思うなぁ。』
「…お前は、どう思った??」
『え??』
「その…結局は邪魔されたが…実技デュエルで俺と当たったと知ったとき―――」


万丈目の問いは、この流れで言うと、”俺のことをどう思っている??”と聞いているのに等しかった。


『そ、それは……うっ』


ろじこの顔は、さっきから熱を帯びて――風邪を引いているせいでもあるが――赤みが引かない。

そして、恥ずかしさも手伝ってか、急に体温が上がり、ろじこはフッとめまいを起こしてベッドに倒れ込んでしまった。


「すっ、すまない!!変なことを聞いた……しんどいだろう。もう一度寝ろ。」
『う…ん……』




しかし、ろじこは虚ろな目をしたまま、眠ることが出来なかった。


「寝ろと、言っているだろう??」
『そうなんだけど…でも、寝ろって言われて寝れるもんじゃない…』
「授業中は寝るなと言われても寝るのに、か??」
『うっ…』


万丈目がチラと時計を見ると、もう夕方の6時だった。


「ふぅ、俺もさすがに女子寮に長居するわけにはいかないな……」
『え??』
「とりあえず、今日言った通り、朝に電話してやるから。…ちゃんと睡眠をとれよ。」


そう言ってろじこの頭をポンポンと撫でると、万丈目は帰ろうとする。


「……っ!!」


とっさに、万丈目の手を掴むろじこ。


『……行かないで……』


消え入りそうな声で懇願するろじこ。


『……一人は、寂しいから……』


万丈目は、フッと柔らかい笑みを見せると、自分の手を握っているろじこの手をギュッと握り返した。


「仕方のない奴だ。明日は休日だからな。一緒に寝てやるから、ちゃんと寝ろよ??」
『ありがと…』


ろじこは安心したのか、すぐに眠りについた。





数時間が経ち、万丈目は目を覚ました。
暗い部屋で、隣にはろじこが規則正しく寝息を立てている。


「…コマンド・ナイト。聞こえているんだろう。」


なるべく小さい声で、万丈目はろじこの精霊の名前を呼ぶ。


「馴れ馴れしいぞ、万丈目!!しかも、ろじこに添い寝をするとは…!!この、痴漢めが!!」
「なんだと!?…いや、それは今はいい。一つ、聞きたいんだが…」
「ろじこの華麗なるスリーサイズなら教えんぞ。」
「べっ、別にいらん!!…真面目な話だ、今日何があった??」


万丈目の問いかけに、コマンド・ナイトは急に深刻な顔付きになる。


「…知っているようだな。」
「…カードの中から見ていたから…しかし…」





『万丈目くんには言わないで』





エントリーナンバー4にされたことを明日香に口止めするろじこの言葉も、コマンド・ナイトは知っていたので少し戸惑う。





「あいつが倒れたんで駆け寄ると、全身がずぶ濡れだった…」
「…それ、は…」
「今日…ブルー3年の女子生徒に、告白された。」
「!!エントリーナンバー4か。」
「俺は断ったのだが、その時やつがゆにばーすのことを口にしていたんだ。」


”あなた…ゆにばーすの方が良いって言うの…!?”


明らかにろじこをよく思ってはいないであろう発言。
それ以後に、ずぶ濡れで倒れたろじこ。

万丈目は、大方気付いているようであった。


「…そう。ろじこは、ろじこを嫉む連中に狙われたんだ。」


トーンを落として、コマンド・ナイトは言う。


「昼休み、連中に頭から水をかけられたんだ。それでろじこは、ずぶ濡れのまま連中を追いかけた。…それが原因だ…。元凶である、ミスコンでエントリーナンバー4だった女子生徒を追い詰めるも、結局は小日向星華がその場を仕切り、ろじこに温泉施設へ促した。」
「その温泉施設へ行く途中、倒れたのか。」
「そう。」
「…申し訳なかった…」


頭を下げる万丈目に、コマンド・ナイトは少しだけ驚く。


「あっ、いや…万丈目を責めているわけでは……だから…ろじこが心配だと言うのなら、今日一日はそばにいてあげて欲しい。」
「…分かった。」


起きる気配のないろじこの髪を撫で、万丈目は誰にも聞こえないような声でつぶやく。





すまなかった、守ってやれなくて―――





ろじこの耳には届かないはずだが、確かにろじこの表情がゆるむ。
万丈目は、そんな気がした。


そしてまた、万丈目はろじこの隣で眠るのであった。





―――次の日。


「ろじこー、調子はどう??」


ガチャ、とドアを開けてろじこの部屋を開ける明日香。


「……え??」


彼女が見たのは、おでこに冷えピタを貼って眠るろじこと、密着とまではいかないが、至近距離で添い寝する万丈目。





二人の距離は、着々と縮まっているのである。





「…ちょ、ちょっと万丈目くん!!あなた、何ろじこの布団に入ってるのよ!!」
「ハッ!!…ち、違う!!やましいことは何一つない!!」
「怪しいわね!!」
『うーん…zzz……』





++ To be continued ++







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