雷の夜に






『準……今日は帰りたくない!!』
「っていうか、今まさに来たところだろーが。」










雷の夜に










夜に天候は崩れると予報は当たったが、しかし今夜はあまりにもひどい。
大雨の降りしきる中、雷鳴は絶えず空に響き渡る。

そこで、突然の来客。


ばるこは、ドアを開けて口一番にこう言った。


『準……今日は帰りたくない!!』
「っていうか、今まさに来たところだろーが。」


この雷雨の中、わざわざブルー女子寮からレッドの万丈目ルームに尋ねて来た、彼女――しかも、傘をさしたのだろうにも関わらず、濡れていて色っぽい――をそのまま帰すほど俺は満たされては…いや、冷たくはない。

そう、俺は男の中の男、万丈目サンダーなのだ。

思いっきり抱きしめて、強引に舌を絡め、そして押し倒してやれ!!いや、さすがにそれはマズイだろ!!しかし、ばるこは少しMっ気があるからな、それくらいが調度良いかもしれん!!だが、万が一、ばるこを傷つけてしまったらどうする!!


『……サンダー…??』
「うわぁっ、な、何だ!!お前は準と呼べと言っているだろぉ!?」
『いや…何か様子が変だったから。』
「そ、そうか!?そんなことないぞ!!俺はいつも通り、これからばるこをどうしてやろうかと思考を巡らせていたところだ!!」
『んなっ、バカ準!!あんた、普段何考えてんの!?』
「うるさーい!!お前もそのつもりで来たんだろ!!」
『わ、私はただ雷が……!!』


ゴロゴロっ…!!


『っや…!!』
「……雷、苦手なのか??」
『わ、悪い!?』
「ふっ、ばるこにもそんな可愛いところがあったとはな……しかし、ばるこ。」
『な、何…』
「それなら、お前がここに来るんじゃなくて、俺がお前の部屋に呼べば良いだろ。」
『……ハッ!!』


ここで初めて気付くか、それを。


「ふっ、正直に言えば良いじゃないか。ばるこ、お前、したいんだろ??」
『だから、何でそうなるんだよ!!も〜〜〜良いでしょ!!とにかく、入るからね!!』


そうだ、押し倒してどうこうより先に、こいつを部屋に入れるのを忘れていた。
それにしても、雷が鳴る中であれだけ平然と会話が出来たものだ。
やはり、ばるこの雷が苦手というのは、俺と一夜を共にするための口実か??


「とりあえず、そんなに濡れていたら風邪を引くだろう。拭いてやる。」
『いいよ、自分で拭くよ。』
「だーっ!!俺がやると言っているんだ!!大人しく拭かれろ!!」
『ひぃっ!!』


そう言って、ベッドに座らせ、ばるこの頭から顔から順に拭くと、力が強かったのか、彼女は痛がった。


『いて、いててっ!!ちょ、顔に傷あったらどーしてくれるのよ!!』
「大丈夫だっ!!自分の女をキズモノにするほど俺はS…バカじゃない!!」
『何、さっきから何!!』
「ふっ、10時以降だからな。」
『何だよそれ!!…もぅっ、帰る!!』


その時、運良く…


ゴロゴロ…ピシャーン!!


『ひぇぇっ…!!』
「まぁ、こんな天候だが、ばるこが帰りたいのではな。俺は止めんぞ。」
『くっ……もぉ〜〜〜泊まる!!』
「ふっ…」


ばるこの頭を拭く手を休め、そのまま頬まで持ってくる。
頬に手を添えられると、ばるこは顔を真っ赤にして大人しくなる。
それを知って、俺は好んでそうするのだが。


『そ、そんなことされたら……私、襲っちゃうかもよ??』
「フッ、返り討ちにしてやる。来い!!」
『じょ、冗談に決まってるでしょぉ!?』
「いてっ」


更に顔を赤くし、俺を突き飛ばしたと思ったら、ばるこはベッドに潜り込んだ。
そんなことしたら湿るだろーが。


「こら。出てこいっ」
『やだー』
「ほう、そんなに襲ってほしいのか。仕方ないな、これだからヤりたがりのばるこは。」
『誰がヤりたがりよっ!!それは準だけよっ!!』
「ったく…」


掛け布団越しにばるこを抱きしめると、ビクッと反応したが、すぐに大人しくなった。
きっと、恥ずかしすぎて動けないのだろう。
とても素直というか、分かりやすい奴だ。


「こんなに身体を冷たくしてまで俺に会いに来たんだろう??強がってないで、もっと甘えろ。」
『じゅ、準……』
「何だ??」
『ホントは、ね、こうされるために来たの。』
「ああ。」
『外は雨が降って暗いし、そのくせ雷でたまに光ったと思ったらすごい音なるし、ホント怖かったの。そしたら急に準のこと思い出して、寂しくなって……』
「それで来たってワケか。」
『うん。でも実際来てみたら、準は何か変態だしヤることしか頭にないから本気で殴ってやりたくなったんだけど……』
「そんなこと思われてたのか。」
『でも今はね、良いよ。』
「……それは、その…何だ、誘っているのか。」
『ばっ、ばか!!聞き返さないでよ!!』


…ばるこ…


「ふっ……ふはははは!!やっとその気になったか、ばるこ!!よし、俺の愛を存分に受け取れぇぇぇ!!せいぜい腰が砕けんよう気をつけるんだな!!」
『なっ…何なんだよお前は!!やっぱ帰る―――ッ!!!!』


さぁ、夜は長いぞ!!
大丈夫だ、雷の音も耳に入らないくらいに激しくしてやる!!









『ん…おはよ、準…あれ??』


―――夢……??

目覚めて、辺りを見回すと、よく見慣れた景色。
そう、ここは私の部屋。


『うそ、夢であんなことしてたの私…』


散々(夢の中で)準にバカやら変態やら言っていたが、これじゃぁ逆に私がそれだ…

でも、確かに鎖骨に残された痕。
間違いなく…現実!?

そうか、準が運んでくれたのか……どうやってかは分からないけど。

そのさりげない優しさを愛しく思い、付けられたいくつかの赤い痕を指で辿っていく。
すると、首筋の上の方に行き着く。


『げっ!!何でこんなとこに付けんのよ、あんバカがっ!!』


制服の下にはタートルネックのインナーを着るのだが、この場所ならギリギリ見えてしまう。

でもきっとこれを準に言っても無駄だろう。


「ばるこが俺のものだという証拠だっ!!それくらい見せ付けてやれっ!!」


そう言うに決まっている。

かと言って、その通りにするのも避けたい。


「昨日はお楽しみだったのかい??」


吹雪さん辺りがゼッタイ絡みに来る!!

仕方ないなぁ……









―――アカデミア


『明日香、おはよー。』
「おはよう、ばるこ……あら、怪我したの??」
『あ、な、何でもないの、何でも…!!』


最終手段として、絆創膏を貼ることにした。
案の定、どうしたのかと聞かれたが、仕方がない。
おおっぴろにキスマークを見せるよりはマシだろう。


『あ、準、おは…』
「ばるこ!!何だその絆創膏は!!」
『いや、おま、おま…っ!!』


お前のせいだろーがぁっ!!

と言いたいのだが、そう言ってしまえば折角隠した意味がない。

恐らく、よほどキスマークを周りに見せ付けてほしかったのだろう。
準は、不満げな顔でこちらを睨んでいる。


「(怪しいわね……)まぁ、気をつけるのよ??ばるこがキズモノになったら万丈目君が悲しむわよ??でもまぁ、それが万丈目君のしたことじゃなければだけど??」
『もっ、もぉ!!怪我なのっこれは怪我なのっ!!これからは気をつけるわ、明日香!!』
「なんだって??ばるこちゃん、昨日はお楽しみだったのかい!?」
『ぎゃー!!(やっぱり来たー!!)』
「もう、兄さんったら。これはただの怪我よ。ね、ばるこ。まぁ、怪しいところだけど。」
『あ、明日香…!!み、みんなのバカぁ!!うわぁぁぁん―――』




「ばるこ…!!もう、兄さんがあんなこと言うから、走り去ってしまったじゃない!!」
「いや、明日香、共犯じゃないかい??まぁ、しかし、あの反応からして……はぁ」
「そうね……はぁ」


そうして二人は、満足そうに笑みを浮かべている万丈目をチラリと一瞥してため息を吐く。


―――ばるこも大変な彼氏をもったわね…―――





++ END ++






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