その瞳に映るものは






黒い鎧に身を包み、眼だけが不気味に光っている。

信じたくなかったが、間違いなくこの男は―――最愛の人。










その瞳に映るものは










この異世界に来て、どれだけの月日が経っただろう。

アカデミアで、異世界への空間を見つけたときは十代たちと一緒だったが、何故か私はそこからはぐれてしまった。
ヨハンどころか、まだ、誰にも会えていない。
それどころか、みんな同じ世界にいるのかさえ、分からない。


『みんな無事かな…』
〈とりあえず、十代にだけでも会えたらね。〉
『んなっ…じゅ、十代だけじゃないもん!!み、んなと会うの!!』
〈寂しくて仕方ない癖に。〉
『ば、ばかっっ』


独り言のつもりが、隣を歩くコマンド・ナイト――私の精霊で、もといた世界と違い、この異世界では普通に存在している――に聞こえたようだ。


〈本当に、こっちに来てからのばるこは元気ないんだ。〉
『そぅ??私は元気だよ。早くみんなを見つけて帰らなきゃいけないんだから!!』
〈ばるこ…私には分かってるよ。デュエルをする度に悲しい顔する。〉
『…そっかぁ…さすが、ね。』


何度デュエルをしただろうか。
例え相手がモンスターでも、デュエルに破れ消え行く姿を見るのは気分が悪い。

宛もなく歩いていると、町に着いた。
今までにもいくつか集落に辿り着くことはあったが、みんな滅んだ後のものだった。
そして、ここもまた例外ではない。
恐らく、今まで私にデュエルをふっかけてきたようなモンスターの仕業だろう。


〈ここも手遅れか…〉
『…ヒドイ…』
〈誰かいれば、ヨハンやみんなを見つける手掛かりが見つかると思ったのに…〉
『仕方ないね、次を目指そう。』


少しの休憩をとった後、また宛もなく次の町を目指すため、腰を上げる。


『…っ!!』
〈何だ、この感じ…っ〉


急に、自分に重くのしかかる重圧感。

ふと遠くを見遣ると、何かの隊列だろうか、重厚感のある鎧を着たモンスターが、部下を引き連れている。


―――あれが、幾つもの町を滅ぼしているモンスター……??


一概にモンスターと言っても、全てが悪いものだはない。
中には、良いモンスターもたくさんおり、実際私も何度か助けられたこともある。


しかし、こんなプレッシャーは…―――


そのとき、先頭を行く鎧のモンスターの、すぐ後ろにいた熟練の黒魔術師が私に気付いた。



「貴様、デュエリストか!?」
『そうよ。町を襲ってるのは貴方達なんでしょ!?…許さないわ!!』


あまりのプレッシャーに上手く身体が動いてくれないが、こうして出会った以上、このモンスター達を放っておくわけにはいかない。

私がデュエルディスクを構えると、熟練の黒魔術師もディスクを構えようとする。


「―――待て、俺が行く。」


鎧のモンスターが出てくる。
黒魔術師は、「覇王様!!申し訳ありませんでした!!」と頭を下げて引き下がった。

―――覇王。
そういえば、途中出会った絶対防御将軍に聞いた。
この世界を支配し、デュエリストは皆殺し、人民は重い労働に使う―――


それなら尚更、ここを通すわけにはいかない。


「――女、俺が相手だ。」
『分かった。』


『「デュエル!!」』









『…私のターン…』


相手の場にはE-HEROマリシャス・エッジとE-HEROインフェルノ・ウィングの上級モンスターが2体と”バックファイア”の永続罠。

前のターンで私の場のモンスターゾーンはがら空きになってしまっている。
かつ、相手のライフを全く削れていないまま、私のライフは1000を切っている。

このままじゃ、私は―――


『―――ドロー!!……っ!!』
〈大丈夫…ばるこ、信じて…!!〉


コマンド・ナイト――まさに今、ドローで引き当てたカード――に頷き、視線を覇王に向ける。


『私の場のモンスターの数が相手より2体少ないとき、魔導戦士ギガ・サイバーを特殊召喚!!そして、切り込み隊長を召喚!!さらに、モンスター効果によってコマンド・ナイトを特殊召喚!!効果で私の場の戦士族の攻撃力は400ポイント上がるわ!!』


攻撃力は、ギガ・サイバーが2600、コマンド・ナイトと切り込み隊長はそれぞれ1600になる。


『さらに、速攻魔法”天使のサイコロ”発動!!』


運良く、出た目は5。
これで、私の場のモンスターな攻撃力は相手と同等になるか、相手より上回る。


『切り込み隊長でインフェルノ・ウィングと相打ちに、ギガ・サイバーでマリシャス・エッジを攻撃!!そして、コマンド・ナイトでプレイヤーにダイレクトアタック!!』


『…切り込み隊長…ごめんね……でも、一気に相手ライフを1400まで落としたわ!!…ここまですんなり攻撃が通るとは思わなかったけど。』


覇王に目を遣ると、ダメージを喰らった衝撃でふらつき、その反動で顔を覆っていた仮面が地面に転がる。



〈なっ、まさか……!!〉
『…う、そ…でしょ……』
〈やはり…ヒーロー使い。まさかと思ったんだ。ばるこ、こいつは―――〉
『…十代…??…な、何で…どうして……』


「くっ、遊びは終わりだ!!」
『やだっ…十代!!十代なんでしょ!!』
「俺のターン、ドロー!!」
『返事して…!!ヨハンを助けに来たんじゃないの!?』
「終わりだ。楽に死なせはしないがな…!!」
『……十代……』
〈ばるこ…恐らく、十代にばるこの声は届いていない……〉
『そんな…』


「俺は、E-HEROヘル・ゲイナーを召喚。さらに、手札を一枚墓地に送り、魔法カード”超融合”発動!!」
『超融合…!?』
「このカードはフィールド上のあらゆるカードを融合することが出来る。」
〈っ…うぁっ―――!?〉
『コマンド・ナイト!!な、何するつもり…!?』
「俺は、E-HEROヘル・ゲイナーと…貴様の場にある、コマンド・ナイトを融合する!!」
『…ダメ!!コマンド・ナイト…―――!!』





何が起こってるの―――??

目の前には、邪悪な姿の――融合されたコマンド・ナイトの面影などつゆほども無い――モンスターがいて。

私の場のギガ・サイバーは破壊されて。

上手く働かない頭が唯一認識できたのは、私のライフが0になったということ―――





〈―――ばるこ―――!!〉


どこからか、コマンド・ナイトの声が聞こえる。

その声にハッとして気付く。


そうか、この異世界でデュエルに敗れた者は―――


―――消える。


足元から次々に、私の身体は光の粒となり、宙に舞って消えてゆく。


『コマンド・ナイト…十代……』


気のせいだろうか。

覇王…十代が悲しそうな顔をしているのは。


『十代っ―――!!』


意識は途絶える。

朦朧とした意識の中で、ただ、はっきりと聞こえた。



最期に、貴方は応えてくれたのね。


「ばるこ…―――??」












「―――おい、見ろジム!!」
「どうした、オブライエン??」
「これ…紅琉琶のデュエルディスクじゃないか!?」
「何だって!?…確かに、これは……くそっ!!ドリームガールまでやられたのかっ…」
「急ごう、ジム。十代まで覇王にやられてないと良いが…―――」
「ああ…」





++ END ++








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