Monarch's Jealousy
私が覇王城に来て、どれだけの時間が経ったのだろう。
覇王…十代は遠征とか言って、城を空けることが多い。
その間、私はとっても暇なのだ。
Monarch's Jealousy
もともと、私は仲間達とはぐれ、一人で覇王――そのときは十代と知らなかったのだが――を倒すべくこの城にやって来た。
―――
『覇王!!出てきなさーいっ!!フリードさんの仇、今ここで討ってやるわ!!』
「ふふふ…―――お前はばるこか。よくもまぁ、のこのこと一人で来たな!!」
『あ、あんたが覇王…ってただのスカルビショップじゃない!!』
「ただの、とは何だ!!まぁ、そうだ。私は覇王ではない!!」
『あんたに用はないわよ!!覇王を出しなさい!!』
「くっ…本来ならばここで消してくれるところだが…覇王様もお前に用があるそうだ。来い!!」
『え、こんなにすんなり入れるの!?私てっきり”城に入りたくば私を倒すんだな!!”とか言われるのかと思った。』
「だから、覇王様がお呼びなのだっ!!来いと言っているだろう!!」
スカルビショップは半ギレ状態でズンズンと覇王城に入っていってしまった。
とりあえず、罠だとしても手段はないのでついて行く。
『やーん、待ってぇ、スカルビショップ様ぁ!!』
「気色悪いことを言うなぁ!!だいたい、お前がそんなことを行ったら私が覇王様に消されるわっ!!」
『は??…まぁ、それはそれで良いけどね。』
「くっ…こいつ……まぁ良い。覇王様はお前にホの字なのだ。」
『ホの字だぁ!?ってか接点ないっす!!会ったことすらないっす!!』
「うるさい女だな!!」
ボコッ
『うっ…』
「ふふふ、悪いな。大人しく覇王様の元に届けられてもらうぞ。」
鳩尾に拳を一発入れられ、私は意識を手放した。
『った…あれ、ここ…??』
「すーすー」
目が覚めると、私はベッドの上に寝ていた。
…良かった。
ちゃんと服もキレイに着てるし、はだけた気色もないので、何もなかったのだろう。
『…ってオイ!!』
何か重いと思ったら、上に十代が乗っていた。
何してんだ、この非常時に!!
『ちょ、十代!!何してんのよ!!っていうか、何でここにいるのよ!!』
「……う…ん…??」
『起きなさーいっ!!』
「ぐぁっ…!!」
思いっきり突き飛ばしてやる。
すると、うめき声をあげた後、十代はゆっくりと目を覚ました。
『何であんたは異世界まで来てお盛んなのよ!!』
すると、十代はこちらを睨む。
『な、何よ…』
「貴様…何をする…??まぁ、安心しろ。まだ何もしていない。」
『しっかり私の上に乗ってたでしょうが!!っていうか十代、いつからそんな口調になったわけ!?』
「俺は覇王だ。」
『…覇王…??十代が…っ…!!』
バンッ
私は部屋を飛び出した。
「おい、どこへ行く!?」
『っ…ちょっと!!どういうことよ、スカルビショップ!!十代が自分のこと覇王とかぬかしてる…っていうか何でここに十代がいるのよ!?』
「あぁ??十代だぁ…??」
「ばるこ!!」
『あれっ。追いかけて来たの、じゅうだ…』
「覇王様!!」
『え…??何言って…』
「愚か者がっ!!この方が覇王様だ!!」
あの時はビックリしたが、でも確かに十代ではなかった。
いや、姿形は同じなのだが、あの金色に光る目とイービル・ヒーロー……
とりあえず、フリードさんの仇は討っておこうとデュエルを仕掛けたが、冷たくあしらわれた。
「知っているだろう。デュエルに負ければ死ぬ。ばるこ…俺はお前にそばにいて欲しい。消えてほしくない。」
『私が負けること前提なのかよ。』
「覇王様!!準備が整いました!!」
「大人しく待っていろ。では、行ってくる。」
『ちょっと…!!』
彼は、遠征と言っては町を破壊し、デュエリストを狩りに出掛ける。
私はもちろん止めるのだが、こういう時――自分の都合の悪いとき――だけあいつは無口になる。
昼寝をしたり、デッキ調整をしたり、歌ってみたり、しばらくは一人で過ごせるのだが、それが毎日のように続くとさすがに飽きてくる。
遠征に出掛けるときは総出なので、私以外この城には誰もいない。
今が戦国時代なら、留守を攻められてすぐに陥落するだろう。
『ヒマ…だーっ!!あーあ、私も加害者なのかな。』
〈…ばるこ。〉
『ほら、いじめだってそうじゃない。直接相手に干渉しなくても、傍観してるだけでそれは加害者だって。』
〈まぁ、それはそうだが…〉
私の精霊、カオスソルジャー−開闢の使者−。
私が一人になった時だけ出て来てくれる。
っていうか、カードの精霊って、ハネクリボーやおじゃまイエローみたいな小さいやつばかりだと思ってた。
まぁ、ヨハンのはいろいろなサイズのがいるけど結構メルヘンだし。
〈とにかく、十代が目を覚ます方法を考えよう。〉
『うん…』
ポンポンと頭を撫でてくれる。
『カオスソルジャー…今そんなんされたら惚れちゃうかも。』
「禁断だぞ。」
『え、マジで!?』
やっぱり、デュエリストとカードの恋って禁断のそれ??
『ふっ、大丈夫よ。私は十代しか見えてないから。…それが、覇王でも。』
〈そうか。〉
『っでもね、覇王になってから何かSっ気あるよね!?っていうかドS!!何かと強引だし。”ヤるぞ、脱げ!!”みたいな。まぁ、私自分から脱がないけど。でも実際優しいから良いっていうか、むしろ言うこととすることのギャップがたまらんですって感じなんだけど。あれ、私Mか??Mなのか??』
〈ばるこ…破廉恥だぞ。〉
ガチャリ
「ばるこ、今帰った……お前…」
『あれ、十代。お帰り。』
〈さて…では、私は帰る。邪魔だろうしな…〉
カオスソルジャーはデッキに戻ってしまった。
甲冑で顔は見えないが、絶対ニヤニヤしてるはずだ。
「ばるこ…お前、何をしてした。」
『しゃべってただけよ。』
「…気にくわない。」
『何でよ。カオスソルジャーは私のカードの精霊よ。』
十代は私に近づき、顎をくいっと持ち上げる。
そ、そんなことされたら私ドキドキしちゃいますぅぅぅ!!
「ばるこ。貴様の目に映るのは俺だけで良い。」
『だから何だよ貴様って。っていうかね、この城にいる限り、不可抗力で話さないといけないことってあるじゃない??例えば、スカルビショップ…』
「分かった。消してくる。」
『じょ、冗談よ…!!』
「…フン。」
『ふーん、覇王様でも嫉妬するんだ。』
「貴様っ…!!」
『へぇ、この世界を支配する覇王様が、カードのモンスターに、嫉妬!!』
「くっ、貴様、許さんぞ!!」
『え、あれ…れ??』
フワ…と中に浮いた感じがしたと思ったら、次に見えたのは天井を背景に、十代の顔だった。
つまり―――
『(押し倒された―――ッ!!)』
「俺無しでは生きられない体にしてやる!!」
『どんなだよっ!!でもっ…好きにしてぇっ―――!!』
―――その頃。
「さぁーて、覇王様、次はどこを征服するおつもりなのだろうか…。」
覇王の側近、バオウはその部下を引き連れ廊下を歩く。
そして覇王の部屋の前まで来たとき…
…ギシッ…ギシッ……
「…な、何ッ…これは…アレか…??」
―――情事…―――
そんな言葉がバオウの頭を過ぎる。
耳を澄ませば、ばるこのものと思われる声がかすかに聞こえる。
そう考えると、少し顔を赤くしたバオウは部下に叫ぶのであった。
「てっ、撤収だっ―――!!」
++ END ++
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