過去を打ち消して






『っく…』


ある、夜のこと。
ジムは、海岸で一人泣いている少女を見つけた。










過去を打ち消して










「…ドリームガール…??」
『っ…ジム……』


彼女の名はばるこ。
ジムがひそかに思いを寄せる人物であった。


「泣いているから…気になったんだ。」
『そ、そう…』


ジムはばるこの横に腰を下ろした。
近づきすぎず、かと言って離れてはいない、少し気を利かした距離。


「…何か、あったのか??」
『……』
「いや、良いんだ。すまない、俺が無神経だった。」


じゃぁまた明日、そうジムが言い、腰を上げようとしたところでばるこは口を開いた。


『…あの、ね…』
「話してくれるのか??」


頷くばるこに、ジムは少しだけ微笑み、腰を上げるのをやめた。


『フラれちゃったの。』
「!!…それは、」


ばるこは以前、付き合っているブルーの男子生徒がいた。
ジムはそれを知っていたので、ずっとばるこに思いを打ち明けることが出来ないでいたのだ。


『浮気癖があったんだ…でも私、いつも許してた…』
「…ドリームガール…」
『…好きだったから…いつも、私が一番だって、言ってくれたから…』
「……」


ジムは何も言えずに、ただばるこの話を聞いていた。
そのほうが、ばるこが話しやすいと思ったからだった。


『そんな言葉、嘘だって知ってたのにね…っ…』


ばるこはまた涙を流した。
何度も重ねられた裏切り。
さすがに我慢が出来なくなり、別れを切り出そうとしたところ、先に別れを告げられたのだと言う。

こんなにも彼女を悲しませるその男子生徒に、ジムは少なからず怒りを覚えた。


『私が、馬鹿だったんだ…』
「…ドリームガールは悪くないさ。恋は盲目、そう言うだろう??」
『…っく…』
「ただ、ドリームガールを悲しませるソイツを、俺は許せないが…」
『…ジム…』


ばるこの別れは、彼女にとっては辛い出来事。
しかし、ジムにとってはチャンスでもあった。

ジムは、寄り添うようにしてばることの距離を縮めた。


『…ジム??』
「決まり文句だが…俺なら、ドリームガール…いや、ばるこをこんな風に悲しませはしない。」
『…!!』


先ほどまで泣いていたばるこは、今度は困ったような表情を見せた。


『…今、そんなこと言われても…』
「あ、いや、困らせたかったわけじゃないんだ。」
『うん…』
「ただ、隣で泣くばるこを、ほっておけなかっだけなんだ。誰だって、好きなやつの悲しむ姿は見たくないだろう??」
『…ありがと。』


ジムは、ばるこの頭を優しく撫でる。
それに安堵したのか、ばるこはジムの肩に頭を寄せた。


『今、ここで私がジムを好きになったら…軽い女になっちゃうな…』
「Why??」
『だって、今日まで好きだった人と、明日好きな人が違うなんて、急すぎる…』
「気持ちの切り替えは大切じゃないか??」
『だからって、切り替え早過ぎる……まさか、ジム…』


そういうとこ、割り切ってるの!?と、目を丸くするばるこにジムは焦る。


「ち、違う!!例えばの話だ!!」
『…怪しい…』
「俺は、ずっとばるこが一番さ!!」
『私が、一番…??』


”ばるこが一番だ”

浮気を咎めるばるこに、元彼が必ず繰り返した言葉。


「…そうか。これは、今、ばるこが最も信じられない言葉だったな。」
『そんなこと、ないよ。』
「それは、ばるこ…」
『ジムの言葉なら、私、きっと信じれる。』


ジムのほうに顔を向け、フワリと笑うばるこ。
涙の跡が残るその表情は、さっきまでの悲しみは消え去り、とても優しいものだった。


『まだ、ジムのこと、愛してるなんて言えないけど…待っててくれる??』
「Ofcourse。」


抱きしめたい衝動にかられたが、ジムはぐっと堪えた。

―――ばるこが『好き』と言ってくれたときにとっておこう。


「さぁ、もう夜も遅い。帰ろう。」
『そうだね。』
「送っていくよ。」
『ありがとう。』


二人は並んで歩く。

どちらともなく繋いだ手は―――





++ END ++




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