その迷子は覇王城へ






―――ついていくと、決めたから。










その迷子は覇王城へ










『ぃぃいいやああぁぁぁぁ!!』


出口のなさそうな深い森を、一人の少女が駆ける。


「「待てぇぇぇい!!」」


そして彼女の後ろから追いかけてくるのは、ゴブリンエリート部隊。

ゴブリンはドラゴンに跨がり、少女は自分の足で、それぞれ走っていた。
そういうわけで、少女が追い付かれるのに、そう時間はかからなかった。


「ほほぉ、それはまさしくデュエルディスク。」
「へっへぇ…貴様、デュエリストだな。」
『そ、その、デュエリストの前に、ただか弱く可憐な恋する乙女なんですが。』
「どこがだ!!」
『えぇっ!!何だよあんた!!初対面のくせに何がわかんのよ!!』
「そんな口調でしゃべる女のどこが可憐でか弱いのだ!?」
「まぁまぁ、落ち着け。せっかく獲物を捕まえたんだしな。」


ヘッヘッヘ、と笑うゴブリンたちを前に、青ざめるばるこ。


『な、何、そんなやらしい笑い方!?私を一体どうするつもり!?』
「ふふふ、まずはその邪魔な服を脱がせて…って違うわ!!」
『まさかのノリツッコミ!!』
「だから落ち着け、相方…間違えた、相棒よ。」
「間違えるな、相棒!!今の我々は完璧にコンビではないか!?」
『な、何なの…世界が絶望の淵に立たされているっていうのに、この陽気さ…』
「ことの原因はまず、貴様の振りだろう!?」
『…いっそ、三人でコンビ結成しますか。』
「「目指せ、オンエアバトル高得点!!…って、アホかー!!」」
『ひぃっ!!恐ろしいほど息ピッタリだ!!』


顔を真っ赤にして怒るゴブリン達を尻目に、ばるこはケラケラと笑う。


『あははっ…サイコー!!』
「こちらは最悪だっ!!」
「もう容赦はせん!!覇王様のもとへ連れていくぞ!!」
『覇王…ええっ!!あの、この世界を征服しようとしている、覇王!?』
「そうだ!!ぶはははー!!」
「どうだー!!怖いだろー!!」
『ま、マジでっ!?冗談抜きで怖い!!何でぇっ、私たちコンビでしょう!?』
「誰がだっ!!」
『…あ、でも、エリート部隊っても所詮は下っ端でしょ??覇王と直接関わりなんて…』
「ぐ、ぐぅ…」


”下っ端”という言葉に怒りを覚えつつも、本当のことなのでゴブリンたちは言い返せない。

そして、ゴブリン達の顔色が急に青ざめたと思ったら、ばるこの背後から声がした。


「…何を手間取っている…」
「「は、覇王様…!!」」

『……ん??』


ばるこが振り向くと、そこにはスカルビショップやカオスソーサラー、他に数体のモンスターを従えている、”覇王”と呼ばれる人物がいた。


『声が、十代…だったよね……えいっ!!』
「っ!?」


ばるこは覇王の近くまで歩み寄ると、彼が付けていた仮面を外す。


『…やっぱり、十代だったの。』


覇王は少し驚いた顔を見せたが、すぐに元のように無表情になる。


「…ばるこ、俺は十代じゃない。覇王だ。」
『どっちでも良いけど…会いたかった。』
「…ばるこ……ぐっ!?」


覇王がばるこを抱きしめようとした瞬間、覇王の下腹部に痛みが走った。


『ふふ…十代。今、この異世界で初めて会ったけれど、元の世界にいたときからずっと、この怨みを晴らそうと思っていたのよ…』
「な、何ぃっ……」
『十代あんたっ、私のプリン食べたでしょー!!』
「「まさかの根に持つタイプ!!」」


思わずツッコミを入れるゴブリンエリート部隊。
しかし、覇王とその側近に睨まれ、すぐさま逃げ出すのであった。


『…こ、コンビ解散…!?』

「覇王様!!大丈夫ですか!?」
「女ぁ!!覇王様に何をする!?」
『な、何!?じゃぁ、あんたたちは風呂上がりの楽しみにしてたプリンを勝手に食べられて平気なわけ!?』
「レベル低すぎるだろ!!」


ばるこにつっこむ側近たち。
覇王は財布(十代の)から500円玉を取り出し、ばるこに投げ付ける。


『痛いっ』
「多めにやるから許せ。」
『おぉ…わーい!!』
「「現金な奴。」」


態度をコロッと変え、覇王になつくばるこに対し、側近たちはそう思った。


「…お前たち。後は任せたぞ。」
「は、覇王様…と、言いますと…??」
「俺はばるこを覇王城へ連れていく。」
『そして、ナニをする。きゃー』
「ばるこ、余計なことを言うな。覗かれ、音を盗聴される。」
『いや、その前に否定してください。』
「本当のことだろう、ばるこ。」
「し、しかし覇王様がいなければ、我々はどう動いて良いか…」
「そうか。では、今日は雨天延期!!次の遠足は来週の日曜日とする!!」
『快晴ですけど!?っていうか遠足じゃなくて遠征でしょうが!?だいたい異世界に曜日設定なんてあるんですか!?』
「フッ、ばるこ、見事なツッコミだ。」
『…しんど…』
「ハイ、解散!!」
「「「「ハッ!!」」」」


こうして、側近たちは散り散りに帰って行った。


『ええ…こんな軽くて良いのかよ、覇王軍…』
「大丈夫だ、ばるこ。来週こそはちゃんとする。」
『…来週こそ、来週こその無限ループは嫌ですよ。』
「…ああ。」


ばること覇王、二人しかいなくなったところで、二人は手を繋いで歩き出した。


「…逃げないんだな、ばるこは。」
『ぁん??』
「ばるこ、そんな声を出すな。我慢できなくなる。」
『違うっつーの。聞き返してんのよ。』
「そうなのか…ガッカリだ。」
『何が!?』
「この世界の者は、覇王と聞いたら逃げ出す。しかしお前は…」
『ま、最初はビビったけど…十代だったしね。』


ばるこは覇王の顔を見上げる。
少し寂しそうなその表情に、不覚にも覇王は心臓が高鳴るのを感じた。


『…忘れたかな…元の世界で、私と十代の関係は…』


そこで、覇王はばるこを抱きしめた。


『(…鎧が当たって痛い…)』
「忘れるはずがないだろう、俺とお前は…」
『じゅ、十代……』


覇王の抱きしめる力が強すぎ、ばるこの顔は紅潮している。


「…恥ずかしいのか??可愛い奴め。」
『首しまって…!!し、死ぬぅ…』
「ハッ!!す、すまん…つい。」
『けほっけほっ…何が、つい、よ!!私を殺す気!?』
「しかし、このくらいした方がばるこは喜ぶと思ってな。」
『私はマゾか!?』


覇王はフッと笑うと、ばるこの頭を撫でる。
それにはばるこも少しドキッとした。


「俺とお前は…仲の睦まじい、ときには喧嘩したり、裸で抱き合ったり、何もかもさらけ出し合える…つまり、彼氏彼女と書いてカレカノと言う関係だ。」
『前フリ長っっ!!…まぁ、覚えててくれたのは良かったよ。余計なもん入ってたけど…』
「ありのままの日常を言っただけだ。」
『ですよねーそうですよねー』


ばるこはため息をつきつつも、覇王にピッタリと寄り添って、覇王城に向かうのであった。


「ばるこ、帰ったら…」
『ナニもしないよ?』
「・・・」





++ END ++




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