表裏一体(2nd)


気付けば夜も更け、芭蕉さんが「今日は2人とも泊まっていきな?」と言ってきたので泊めてもらうことにした。
部屋には僕が二人。未だに慣れない。
居心地の悪い思いをしながら就寝準備をしていると、突然もう一人の僕が近寄ってきた。
『…この世界の僕は自分の気持ちに素直になれないみたいですね』
「は?」
『見ていて分かります。本当は芭蕉さんに優しくしてあげたい、でも素直になれずに手を挙げてしまう…、そうでしょう?』
もう一人の僕には全て見透かされているのか。益々悔しくなった。
「貴方に僕の何が分かるっていうんですか」
低いトーンで吐き捨てるように言うと、もう一人の僕はフフッと息を洩らして言った。
『何言ってるんです、僕も貴方も元は同じでしょう、分かるのは当たり前です』
「僕は貴方に対して非常に理解に苦しむのですが」
『でしょうね。僕と貴方は表裏…正反対の性格みたいですから』
芭蕉さんがいた時とはまるで違う彼の態度にイライラが募る。チッと舌打ちして彼に背中を向けた。
今日はもう寝て、こんな気持ちさっさと忘れよう。
そう思って布団に横になろうとした。
刹那、急に肩を掴まれ無理矢理顔を回される。そして。

ふにゅ、と柔らかい感触が伝わる。気付けば芭蕉さんのよりも潤いのある唇が僕の唇を捕えていた。目の前には僕の、少し上気した顔。
("僕"にキス、された…!?)
「や、やめろ!!」
咄嗟に突き飛ばすと、彼は布団に仰向けに倒れた。気が動転して冷静さを失った僕はそのまま彼に馬乗りになって頬を叩き、彼に対する感情をぶつけ続けた。

(気持ち悪い!こんなのがもう一人の僕でたまるか!)

ところが彼は不思議と抵抗しなかった。むしろ…恍惚の表情を浮かべている。
ゾッとして思わず手を止めた。もしかして、と悪寒が走る。
すると彼は僕の手を掴んで若干涙目の上目使いで言った。
『…もう終わりですか…?』
僕の予感は的中してしまった。
芭蕉さんに抱かれる側の僕は、俗にいう"マゾ"だったのだ。
打たれた頬は赤く染まって、ひどく痛々しい。しかしその頬の赤さは今の彼の発言により、物理的な衝撃で赤くなったのではない赤みも交じっているように思えた。
僕が言葉を失っていると、彼は僕の背中に手を回して引き寄せ、耳元で囁いてきた。
『…僕を虐めてくれる芭蕉さんがいなくて寂しいんです…、だから今晩は貴方の相手をさせてください…』
心臓の鼓動が速く、激しい。恐怖からなのか何なのか分からない感情で頭が満たされる。自然と冷や汗が流れた。
こいつは僕を誘っている。妙に色っぽい声で僕に、僕自身に劣情を抱かせようとしている。というかなぜこいつは自分に発情しているんだ。
すると僕の頭の中を覗いたかのように彼は口を開いた。
『…強気な貴方を見て向こうの世界の芭蕉さんを思い出したんです、だから…』
彼が僕と目を合わせる。目はだいぶ潤んで微かに震えていた。
表面上では侮蔑に近い表情になっているはずだが、実際はどうだろう。もしかしたら顔はだいぶ恐怖に歪んでいるかもしれない。すると彼が呟いた。
『…そんな泣きそうな顔しないでください…、確かに自分とヤるなんて嫌でしょうけど…、でも…僕は早く貴方が欲しいんです…、…曽良ぁ…っ!』
嗚呼、僕は泣きそうな顔になっていたのか。そりゃそうだよ。なんでよりによって僕とヤらなきゃいけないんだ。でも。
自分なのに。自分の厭らしい必死な声と表情にどうしようもなく欲情してしまう。
突然ぐるんと体勢が変わり、今度は彼が僕に馬乗りになった。
『…分かりました、僕が自分で貴方のモノを咥えます』
そう言うと、彼は僕の寝間着の帯を解き始めた。
(…もう一人の僕はドMで無節操なのか…)
それを把握したとき、僕は抵抗する気が失せ、そのまま目を閉じた。こちらが主導権を握ってやろうとも思えないくらい女役のもう一人の僕の性交に対するふしだらさに落胆したのだ。
その間、もう一人の僕は慣れた手つきで着々と情事の準備を進めていた。

それからはなぜか記憶が飛んだ。




――気が付くともう昼間で、しかも僕は僕が住む長屋で寝ていた。周りを首だけを回して見たが"彼"の姿は見当たらない。
(…ああ、帰ってきたのかな、こっちの世界に)
昨晩のもう一人の僕との情事のことはよく憶えていない。ただ、芭蕉さんと程ではないものの、激しく性交に耽ってしまったことは確かだろう。腰が痛いから。
(…これが芭蕉さんにバレたら嫌われちゃうかなぁ…)
僕は布団に包まったまま暫くぼんやり天井を見つめていた。

「あ、曽良くん…!」
急に芭蕉さんの幻聴が聞こえたかと思って体を起こし声が聞こえた方を見やれば、本当に芭蕉さんがいた。芭蕉さんは滅多に長屋には来ない。なぜ…?と考えていたら、芭蕉さんがつかつかと此方に近づいてきて、そのまま乱暴に口づけてきた。
「…ッハァ、もう!君昨日どこ行ってたの!?どこ探してもいないから松尾心配で死のうかと思ったよ!」
いきなりキスされて少し戸惑ったものの、芭蕉さんが心配してくれていたことが嬉しかった。
実際どうして、どうやって、行ったのか分からないんだけれども。僕がすいません、と言って俯くと、芭蕉さんはもう勝手にいなくなっちゃ駄目だよ、と言って頭を撫でて抱きしめてくれた。

(やっぱりこの世界の芭蕉さんが一番いいなぁ)
幸せで満たされる心と頭に僕は機嫌を良くしてそっと芭蕉さんの背中に腕を回した。

暫くそのままでいたら、ふと芭蕉さんが僕の体を解放した。
僕がキョトンとすると突然首の根本を軽く突かれる。
「…こんなとこに私が付けたんじゃないキスマークついてる」
大層不機嫌な声で芭蕉さんが呟いた。ハッと気づいたときにはもう遅い。
みるみるうちに芭蕉さんの表情が険しくなっていく。
僕は慌てて昨日起こった出来事を芭蕉さんに話そうとした。
『あ、あの…違うんです芭蕉さんその…』
「そっか、曽良くん昨日ずっとどっかの誰かとヤってきたんだ、またか流石尻軽。質悪いよ本当」
『なっ…、違うんですってば!』
「何がどう違うの?」
芭蕉さんの目つきが鋭利な刃物のように鋭く、冷たい。
確かにいくらもう一人の自分だったとしても、芭蕉さん以外と過ちを犯したことに変わりない。僕が先に性交に誘ってしまったのが元凶なわけだし…。というかまず芭蕉さんにパラレルワールドの存在をどう説明しようか。
僕が返答に悩んでいると、芭蕉さんは深いため息を吐いた。
「…誰が君をそんなだらしない体にしちゃったんだろうね?」
そんなことを言われたら何だか急に恥ずかしくなってきた。しかし苛められている、と興奮している僕もいる。
『…貴、方です…』
消えるような声を出すと、芭蕉さんはあどけない笑みを浮かべた。
「うん、そうだったよね。じゃあ曽良くん、私が師匠としてまた君を躾けてあげないとね…!」
そう言った途端、僕は乱暴に布団に押し倒され、寝間着を引き剥がされる。

かくして、真昼から始まった芭蕉さんによる僕の躾は僕が意識を飛ばすまで行われたのであった。


その後、何とか芭蕉さんの誤解は解けたが、あの世界の芭蕉さんに芭蕉さんが手を出していたことを知って、僕はお互い様だとして、自分への罰も含めて暫く芭蕉さんと口を利かないことにした。
…たぶん1日ももたないだろうけど。



------------
すまーん\(^o^)/曽曽好きすぎてつい…!
地味に芭芭の話と繋がってるんです。そして芭蕉さんがいっぱい出てきましたが、あくまでこれは曽曽メインなんです本当。w
でも後半の芭曽のターン長かったかもしれない。
取り敢えず曽芭の反対である芭曽の曽良くんは誘い受けで且つエロビッ●だと信じています。←

12.07.27

back|→


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -