優しさの温もり


あ…あっ…ぅひぃんん…っ…

静寂の中聴こえてくる呻き声は、快楽と苦痛の間のようなとても気味が悪いものだった。
この声の主──芭蕉は今弟子の曽良に俯せの状態で床に押し付けられ、馬乗りにされている。
もう慣れた筈の刺激なのに、どうしても声が漏れてしまう。
芭蕉は腕で口を塞いで懸命にその刺激に耐える。
だが、声は漏れてしまう。その結果が先ほどの呻き声となる。

「うぅっ…んっ…ひぅっ…!」
「芭蕉さん、無理して声を堪えないでください逆に不愉快です」
ピシャリと言ってのける曽良を芭蕉は少し睨む。

(誰のせいでこうなったと思ってんだよこの鬼弟子…!!)

「次、また鬼弟子と言ったら縛り上げます」
「!?そ、曽良くんってエスパー!?…っあぁ!!んんっ!!」
芭蕉との会話を遮る為かのように曽良は芭蕉がよく反応するある一点を突いた。
「ああああ!!!!そっ、曽良くんっ…!そこは…っ!!」
涙目になって弟子の方へ振り返る芭蕉の姿は、余りにも今一世を風靡している俳聖とは思えないほど無様だ。
曽良は容赦なく的確に芭蕉のポイントを突いてくる。
それは芭蕉の体を労るどころか、寧ろ悪化させている気さえする。
「芭蕉さん、どうです?気持ちいいでしょう?」
グリグリと突きながら曽良はニヤリと笑う。
気持ちいいわけがないだろ!!と言いたい芭蕉だったが、そんなことを鬼弟子の曽良に言える筈もなく。
「き、気持ちいいよ…」
半ば涙声で棒読みになったその声も静寂の中に吸い込まれ、消えていった。


暫く同じようなやり取りを繰り返していた。
「ふぅ…さて、そろそろ終わりましょうか…」
長い時間やっていた為、さすがの曽良も疲れてきたようだ。
「う、うん…」
芭蕉が承諾した為、曽良がある一点を目一杯突いた。
その瞬間、芭蕉は体に電撃が走ったような感覚に陥り、思わず叫んだ。

「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」
「うるさい!!!!」
「ねたばらしっ!」
容赦ないチョップが後頭部に落ち、芭蕉は畳に思いっきり顔をぶつけた。
だが直ぐに顔を上げ、弟子の方をキッと涙目で睨み付ける。

「だっ…だって曽良くん、そこは私の急所のツボだよ!?そんなとこ押されて声上げない人いないよ!!」
「仕方ないでしょう?ここを押せば今までの疲れが吹っ飛ぶんです。我慢してください」
曽良は悪びれもせず、たださっきから芭蕉がよく反応するある一点のツボを押していた。
グッと親指に力を込めれば、もれなく芭蕉の叫び声が響く。
「いだだだだだだ!!だ、だったらもうちょっと師匠の体を労ってくれたって…」
「だからこうして毎晩旅で疲れた芭蕉さんの体を労って、さっきからずっとツボ押しマッサージをしてやってるんですよ?」
「曽良くんのは力強すぎて逆効果なんだよ!!松尾頑張って痛みに耐えて声堪えてるけど、もうさっきのは叫ばないと気がs」
「黙らっしゃい!!」
「あしつぼ!」
舌戦の末、弟子に今度は容赦なく後頭部を蹴られた芭蕉は再び頭を畳にぶつけ、そのまま突っ伏した。
「曽良くん…師匠の背中に跨がった状態からそんな器用にキックしてこないでよ…」
「芭蕉さんが僕が親切でやってることに文句をつけるからいけないんですよ。…今日はもう終わって寝ましょう、明日も早く出発しますしね」
そう言うと曽良はそのままスッと芭蕉の背中から降りた。
ずっと背中で感じていた体温が離れていく。
芭蕉は体を起こし、フゥと息を吐いた。
体はツボ押しの効果もあり、随分と動かすのが楽になった。
しかし、胸の奥底には虚無感のようなものが残り、何か無性に寂しく感じた。

あの痛みの方が勝るツボ押しマッサージは早く終わってほしいと思う。
だが、曽良の体温をずっと感じることのできる時間でもある為、終わってほしくないとも思う。
少し向こうで就寝準備をしている曽良に背を向けて芭蕉は俯いた。
「どうせならこのまま曽良くんと一緒に寝たかったなぁ…」
その小さな呟きは相手に届く前に静寂の中に溶けて消える。

刹那。

「そんなこと言われなくても、僕はそうするつもりでしたよ」
ハッとして振り返った芭蕉の唇を曽良の唇が塞ぐ。
互いの唇から互いの体温が伝わっていくのを感じ、芭蕉の心はどんどん曽良で満たされていった。



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最初の表現で情事を匂わせといて、実は単にツボ押しマッサージをしていただけというね(笑)
引っかかった方、おめでとう!私の仲間です(^^)←

11.09.24
12.07.26 加筆・修正

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