貴方中毒


ふと、目が覚めた。
まだ辺りは暗い闇に覆われて、月の光が唯一の灯りだった。
その灯りが照らすのは隣に床を敷いた弟子の綺麗な寝顔。まるで死んでいるように白い肌に薄い唇。スッと通る鼻に形のいい眉。切れ長の鋭い目、それを守る長い睫毛、そして漆黒色の美しい髪。
まさに容姿端麗を具現化したようないつも見慣れているはずのその顔が、時間帯によっては全く違う別人にも見えた。
そう、寝ている時の鬼弟子はあどけない無垢な子供の顔をしているのだ。
「……寝てれば十分可愛い弟子、なんだけどなぁ…」
布団を抜け出し弟子の髪に触れ、ふと呟く。
弟子の髪は全く指には絡まらずにサラッと流れた。

ふと夜風に乗ってほんのりと弟子の、曽良の匂いが芭蕉の元にやって来る。
優しい曽良の香りに誘われるように、気付けば芭蕉は曽良の上に跨り首元に顔を埋めていた。そしてそっとキスを一つ。
いつもは曽良が行う、その行為。なんとなく芭蕉は優越感に浸った。
離れるのが惜しくて、暫く曽良の首元に吸い付くように顔を埋めていると、
「………いつまでそうしているつもりですか、変態ジジィが」
闇に溶ける低い声が芭蕉の耳に響く。
ハッと顔を上げると、目を覚ました曽良が顔をしかめて芭蕉を見据えていた。
急に今の行為に恥ずかしくなった芭蕉は慌てて曽良の上から降り、自分の布団に戻ろうと座ったまま後退りする。しかし、その試みは呆気なく曽良に足首を掴まれたことによって絶たれてしまった。
「逃げるくらいなら最初からやらなければいいものを」
そう言いながら間合いを詰めてくる曽良に恐怖心を抱きながら、ふと芭蕉は掴まれた足首から曽良の体温を感じる。曽良の体温は、いつもより高い気がした。ということは…。
芭蕉はおずおずと曽良に訊いた。

「曽良くん、もしかして恥ずかしかったの?」
曽良は芭蕉の言葉に少しだけ驚いた顔をした。
しかしすぐに無表情に戻り、
「そんなわけないでしょう」
とだけ言った。
しかし曽良の本音が知りたい芭蕉は引き下がらずに詰問する。
「…でも曽良くんの手、熱いよ?」
その一言に、曽良は誤魔化しきれないと悟ったのか、芭蕉を見つめて言った。
「……いつもより積極的な貴方の姿に興奮しているだけです」
曽良のその言葉にビクッと体を跳ねさせる芭蕉を、発言した張本人は抱き締めそのまま押し倒した。
これは曽良が、勝手に匂いを嗅いだ代償として抱かせろと理不尽な要求を示唆しているのだと芭蕉は察した。
抵抗してもどうせ逃れられないと諦めた芭蕉がそっと曽良の背中に腕を回すと、途端に曽良は首筋に吸い付きチュッと音を立ててキスをした。
首筋を吸われながら、芭蕉は結局はお互い様だなぁと思ったのが最後、曽良との愛を深める行為に夢中になったのだった。



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取り敢えずいつもよりちょっと変態で積極的な芭蕉さんとそんな芭蕉さんの行動に内心照れてる曽良くんの話が書きたかったんです。←
芭曽芭に見えますが、あくまでも曽芭だと言い切る(笑)

12.06.18
12.07.26 加筆・修正

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