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ジェクティ


久しぶりに泳ぐかってんで、ビサイドにやってきた。この世界で海っていやあここだけだ。今んとこな。不便っちゃあ不便だが、他があってもここを選んでたろうから、別にどうってことでもねえ。青い海。白い砂浜。これだよこれ、うめー具合に誰もいねえ砂浜を駆け抜けて、一気に飛び込む。
誰か来っと面倒だ。さっさと潜っちまうつもりだった。それが何でか、少し泳いだとこで島のほうを眺める気になったのは、自分でもよくわからねえ。偶然にしちゃあできすぎだ。入り江になってるとこに、そいつはいた。
おいおい、なんでこいつがんなとこにいんだよ。驚きも焦りもなかったとは言えねえが、近づきながらそれは呆れに変わっていった。何のんきに寝息立ててんだこいつあ。腹上向けて大の字になりやがって、警戒心の欠片もありゃしねえ。わざと音立てて横に座ったにも関わらず、眠ったまんま、オレはため息つきながらアホ面を見下ろす。
こいつがどうせ、オレと同じこと考えてここに来たんだろうってのは、考えなくてもわかった。そいつはいい。しかし泳ぎ疲れて寝こけるたあ情けねえ、もしオレが敵だったらどうすんだ?
ここはいっちょ、叩き起こしてやるとしますか。そんでサシでぶちのめして、わからせてやる。エキシビジョンマッチってやつだな。普段オレとは戦いたくねえだの抜かして、なんだかんだと逃げ回るからちょうどいいぜ。
…ってとこまで考えて、急に冷めた。あー…何考えてんだオレあ。つい頭をかいちまう。むずがゆい気分になる。
つっても今となっちゃ、馴染みの感覚だけどよ。この世界に呼ばれた連中は、まあいろんなやつがいるがそのくせ、大抵のやつはオレを、こいつの父親として扱ってくる。中にはこいつが何しただのなんだのと報告してくるヤローまでいやがる。そういうときにもオレは、こんな気分になった。
報告してくんのは勝手だ。だがよ、それでオレにどうしろってんだよ。たしかに見た目はひょろひょろのガキだが、もういちいち世話焼く歳でもねえだろ。それにこいつも思ってるに違えねえぜ。今更父親面すんなよってな。
…まあその、なんだ…。
「むにゃ」
「っ!」
おい、驚かせんじゃねえ!
急に動きやがるから、慌てて身構える。って寝返り打っただけかよ。起きたかと思ったじゃねえか、バカヤロー。勢いに任せて今度こそ叩き起こしてやろうとして、オレはまた固まらせられた。
ユニフォームの端を掴んでくる手。
こいつ本当に寝てんだろうな。寝たふりってんなら承知しねえ、おいこら離せ、…そのつもりが、伸ばした手はまっすぐ、こいつの脳天に向かっていた。がしがし撫で回す。懐かしい感触。こいつの姿がガキ、もっとガキだったころの姿と被る。
…ったく。笑っちまうよな。
起きねえこいつも悪いが、オレも大概だぜ。この性分ばかりは、世界がなんべんひっくり返ろうが、直りそうにねえや。

2018/8

 



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