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びっくりした。
「げ」
マヌケな声が被ったのにもびっくりした。状況からいって同じリアクションしちゃうのはしょうがないにしても、ここまできれいにハモることなくない?そんなどうでもいいこと考えてたら過ぎた10秒間、先に口を開いたのはあっち。
「よう」
ぶっきらぼうな挨拶だった。控えめな手の仕草も含めてちょっと気まずい感じ、でも相手がノクトって考えたらいつもどおりのノリだ。…いやむしろいつもどおりすぎるって。オレのほうが怯まされたみたいになって動けない、だって状況が状況で。
森の中のとある木の上。絶対にひとりになれると思って選んだこの場所で、オレが何してたかって、…泣いてた。わーってなるときくらいあんだろ。でもってそういうの誰にも見られたくないじゃん、普通。だから隠れてひとりでいたのに。
まさか見つかるとは思わなかったんだ。言い訳になっちゃうけどさ、ただでさえ油断してたし、ノクトもノクトで気配消してたし。だからまあここまではしょうがないってことで百歩譲って、いいことにしてやってもいいッス。大事なのはここからだ。ノクトが見なかったふりしてくれれば、他人に興味なさそうなやつだしきっと大丈夫…って。
「邪魔すんぞ」
居座るなんてきいてねーよ!…信じられないって感じのオレの顔は見えてたはずなのに、ノクトはそばまでやってきてどっかり座り込んだ。いい位置取り探してもぞもぞしてる。ちょうどよくくぼみになってるとこ気に入ったみたいだ、背中預けてリラックスしだした。
…はあ?何考えてんだこいつ、呆気にとられるってよりは直球でイラっとくる。オレの様子に気づかなかったのかもって線はなしだ。だってさっきしまったって顔してた。それなのに居座るなんて相当空気読めないか、オレのことがどうでもいいかのどっちかだろ。ひでー、こんなやなやつだなんて思わなかったッス。
大体この場所見つけたのオレだぞ。…わざとらしくじと目で睨んでたら、ノクトはめんどくさそうに見返してきた。
「好きにすれば?オレは寝るし」
いやだから何様のつもりだっての。
かっと頭に血が上る。人が黙ってるのをいいことにそうやって勝手な、オレが先にここにいたんだって、なのに好きにすればってどういうことだよ。言いたいことはたくさんあった。たくさんありすぎて、どれからにするか迷ったってだけで。
その迷ってる間になんか変な勘違いされたみたいだ。…いや、オレが勘違いしてたのか。
「そんなときもあるって。あんま気にすんな。オレは寝るから、おまえは見張り役」
ノクトが眠たそうな、…優しい声で言う。
でもオレを固まらせたのはそっちじゃなかった。
「ってことでいいんじゃね?…ひとりでいるよりマシだろ」
頭をぽんぽん、あやすみたいに撫でてきた手のひらのほう。
…正直、子供扱いしやがってとは思った。何言ってんだこいつってのもまだあったし、けどなんとなくされるがままになってたら、だんだんノクトの言いたいことがわかってきたんだ。
つまりはさ、お互いに好都合ってこと。だろ?起きてるオレがそばにいるからノクトは安心して寝れる、ノクトが寝てるから、オレは何やっててもばれない。たしかに、悪くないかもって思えてきた。
誰かが近くにいてくれることのでかさを甘く見てたってのもあって。…ノクトのことも。今まで年上って言われてもしっくりこなかったんだ。はじめて納得した。
…けど、神業かよってくらい一瞬で寝落ちするもんだから、なんだかなーって思い直した。

2020/1

 



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