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こっちじゃ、とか、そっちは、とか。たまに誰かがそういう話してるの聞くと、そういえばなーって思う。何がって、元の世界とかみんなの世界とか、そういうの。
興味がないんじゃなくて、普段気にしてないようにしてるってだけだ。世界が違ったって仲間は仲間だし、それにほら、いろいろ事情があったりするだろ。だから話すのは必要なことだけ、踏み込みすぎないようにって暗黙の了解で。
中にはそういうの全然気にしないやつもいるんだけど。
「なあ、ティーダ」
その代表格、ヴァンに絡まれてるのが今のオレだったりする。
「ティーダってば」
「…なんだよ」
このパターンはまずいって嫌な予感、返事はするけど、勘弁してくれって顔にでかでかと書いといた。普通に話す分にはいいやつだから、やばいやつに絡まれた、ってのは何か違うような気もするけど、正直な感想だ。
だってヴァンといえば。こいつがとある博士にいきなり歳聞いた事件のことは、早くも伝説級の語り草になってる。もちろんそれだけじゃない。ヴァンの何が一番すごいかって、懲りないとこ。こういう話はいくらでもあって、ある意味で要注意人物として知られてる。
そんなやつがわくわくした顔して話しかけてきたんだ、身構えたくもなるって。
「おまえが夢って、どういうことなんだ?」
なのに予想とか全部飛び越えてくるんだから、本当恐ろしいやつ。
うまく流せればよかったんだけど、オレはついヴァンのこと睨みつけて、関係ないだろって返してた。動揺したの気づかれないようにするためっていうのもあったし、単純にいらついちゃったの隠せなくて。
誰にどう聞いたんだっていうのは、知らないし知りたくもなかった。誰かが悪気なしにぽろっと言ったのが、めぐりめぐってって感じだろ、どうせ。だからそれはいい。知らないこと聞くのだって何も悪いことじゃない、けど普通ならここで引き下がるだろ。それがいいじゃん教えてくれよなんて言うんだもんな。
好奇心ありすぎるの、どうにかしたほうがいいぞ。無視してどっかいくこともできた、けど急に変な正義感みたいなのが沸いてきて、オレはヴァンに向き直る。喧嘩になってもいい、言い聞かせてやる。かちりと視線を合わせる。
…そこでまた、気が変わった。
「いいぜ、教えてやる。そのままの意味」
「そのまま?誰かティーダみたいになりたいやつがいるのか?誰だ?」
何でそうなるんだよっていうのと同時に、やっぱりなとも思う。言ったってわかんないって思ったんだ。オレは強気、っていうかヴァンのことバカにしながら続ける。
「そうじゃなくて、夜寝るときに夢見るだろ。そっち」
案の定ヴァンは、わけわかんないって感じで目をぱちくりさせた。へん、ざまあみろ。下手に人の事情にずかずか踏み込むからそうなるんだ、せいぜい悩んで悩んで、悩みまくるがいいッス。
「いでっ!いててっ、なにふんらよ!」
考え込むようなやつじゃないって忘れてたオレも悪いんだけど、いきなりほっぺつねってくるなんて予想外すぎ、避けれない。
「痛いか?」
「は!?いひゃいっへいっへんあお!はなへ!」
「ふーん」
こいつ本当要注意人物だ。
「じゃあ夢じゃないじゃん」
ヴァンはむかつくぐらい当たり前って顔して言った。
今度はオレのほうがわけわかんなくなる番で、ほっぺ好きにされながら動けなくなる。何言ってんだこいつ。…悔しいことに次の瞬間、ぶわーって頭に血が上って。
「いてっ!あにふんら!」
「おあえひっふ!」
その勢いのまま、渾身の力でヴァンのほっぺを引っ張ってやった。いきなりずかずかしてきてオレをこんな気持ちにさせるなんて、なんてやつだ。
もう許さないからな、…その一方で、変に納得してたっつーか、なんつーか。ずっと不思議に思ってたんだ。ヴァンってこういうやつだけど、嫌われてはないよなーって。こういうやつだから嫌われないんだ。
元の世界でもそうやって誰かを助けてきたんだろ。聞かなくてもわかる。
「はなへー!」
「うるへー、おあえあはあへ!」
だからといって、それとこれとは別問題ってことで。
オレもヴァンも意地になってお互いのほっぺを引っ張り合う。手加減なし。マジで痛い。ちょっと涙出てきた、でもオレは少しだけ、笑ってもいた。
…いいこと思いついた。これからは不安になったら、ヴァンのほっぺをつねることにしよう。そう企んでたのは、ヴァンには内緒だ。

2018/11

 



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