審神者と、十三振の刀剣男士たちの食事を作っているのは、御峯勝義である。
初めて本丸に来た当初に一度、審神者が食事を作ったことがあった。が、しかしそれがお世辞にも美味しいとは言えないものだったため、料理をしてみたいと言った御峯に任せてみると、まぁ少々味が過剰な所もあったが、審神者よりか遥かにまし、というか上手だったので、その日から御峯が料理担当だ。

「御峯ちゃんは、料理上手だね。どこかで習ったりでもしたの?」
「え、そ、そうですか?」

審神者は実家の味にも似た御峯の料理が好きだ。
しかし、どうしてこんなにも料理が出来るかを疑問に思っていた。
だから審神者にお茶を持ってきた御峯に、直接その疑問をぶつけてみた。
唐突な言葉に、戸惑ったような声をあげた御峯は、やがて褒められたことを理解したのか、にこりと、とても嬉しそうに微笑んだ。
あどけない少女のように。

「ありがとうございます」

御峯のお礼を言う声が明るく弾む。
湯呑を持ってきたおぼんを脇に差し込み、御峯は審神者の方に目をやった。

「ええ、と、前置きとして、霊や妖怪の類は霊感をもった人間ではないと、認識出来ませんよね」
「うん」

一つ頷く。

「けれど、こちら側からは人間――主様たちのことは当然ながら認識出来ます。干渉だって出来るやつだっています。心霊体験が例えとしていいでしょう。霊感がない人間にも体験出来ることですし。足を掴まれたり、車に内側から手の跡を残されたり、気分が悪くなったりとか、写真?にも写ったりしますよね?それは人間を認識した干渉出来るやつらの仕業です」
「なるほど、出来ないやつらもいるのか」
「まぁ出来るのは強い生前の感情や念を持っているやつが多いですね。あとは運とたいみんぐだと思います」

成程、と審神者は何度も頷く。
――霊感のある人間は、いつも心霊体験しているのだろうか。
審神者は、審神者となれる力を有していたが、霊感は全くないタイプである。生まれてから審神者となるまで霊なるものなど見たことがなかった。
通常、審神者とは遥か昔の神道の祭儀において神を清庭にへと降ろし、その降りてきた神から言葉を頂き、それを他の者に伝える役職である。
すなわち審神者は呼ぶ力と、もし間違えて悪しき霊が来た場合の祓う力が必要となる。
あとは、降りた霊の真贋を見極め、場合によってはそれと戦える知識か。
それらを学んでやっと審神者は、刀剣男士を所持し、本丸を与えられるのだ。

「それでですね主様」

御峯の方へ意識を戻し、審神者は言葉の続きを待つ。
御峯が、笑った。

「私が主様の先祖に買われ、早百年ほど経ちました。――百年の間、私ずっと見ていました」

見ていた。

「ずっとずっと、主様の血縁者の営みを見て参りました」

みて、いた。

「特に食事に、食べ物や調理に興味があったので、そこはまじまじと…だから、習ってはいません、見様見真似です」

見様見真似で?それはすごい。

「――主様は、おむらいすがお好きですよね。その様子ではまだ完璧にご実家の味は模倣出来ていないようですね……。もうすこし練習してからおむらいすをお出しします」

惜しみない好意が、溢れんばかりの善意が込められた笑顔が眩しい。
審神者は目を細めて、それ以外の感情がないことを悟る。
下心と悪意など一切ない思いを受け止めた審神者が「楽しみにしてる」ということを伝え、湯呑に口をつけて、お茶を身体に流し込む。

「でも、見様見真似でこんなに美味しい料理を作れるんだから、きっと元々才能があったんだろうな」
「……」

審神者の言葉に、御峯は頬を赤らめて、照れ臭そうに笑みを変えた。


「おーい、大将に御峯ー、そろそろ戯れるのを止めてくれー」

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