夜に蝶屋敷へ到着した私が、とある部屋の前を通り過ぎようとした所、外国の珍しい扉が開き、中から禰豆子ちゃんがひょっこりと顔を出してきた。
ここ、禰豆子ちゃんの部屋なのね。
いや私が任務に赴いている間に決定したんだろうな。目線を合わせる為に膝を曲げれば、禰豆子ちゃんの後ろから炭治郎が出てきた。

「やっぱり名前か」
「炭治郎!やっぱりって私が帰ってきたの分かったの。気配で?匂いで?」
「匂いでだよ。名前の匂い、俺覚えているから」

へえ。どんな匂いかなと気になっていれば、禰豆子ちゃんに手を握られ、部屋の中へ連れて行かれる。

「入ってもいいの?」
「う!」

禰豆子ちゃんが満面の笑みで頷く。炭治郎の方を向く、同じように頷かれる。ではお言葉に甘えて、と部屋に足を踏み込んだ。
禰豆子ちゃんの部屋は当然個室だった。べっど?があり、唯一の窓は布?で隠されている。薬品の匂いはそれ程しない。禰豆子ちゃんにべっどに座るように促される。いいのだろうか、ここで禰豆子ちゃん寝ていたのに、任務から帰ってきた砂とか埃とかついた私が座っちゃって。
取り敢えず、禰豆子ちゃんに手を離して貰い、隊服の上に来ている羽織を脱ぐ。脱いだ羽織はどこに置こうと考えていれば、炭治郎がごく自然な動作で私の羽織を持ち、椅子の背もたれにかけた。

「ありがとう、炭治郎」
「どういたしまして」

禰豆子ちゃんの手を握る。すると、ぎゅっと握り返される。そして、一緒にべっどに座ればぼんやりとした禰豆子ちゃんの目が、私の目をじっと見て来た。禰豆子ちゃんの隣に炭治郎が座る。

「久しぶりだねえ、元気だった?」
「む」
「うん。そっか良かった。私も元気だったよ、怪我もしてない」

だったら、何故蝶屋敷に来たのかと言えば、姉弟子がここにいるからである。姉弟子の鴉がやってきて、見舞いに来るように言われた。姉弟子はどうやら甘味が食べたいらしく、唯一の妹弟子の私に頼んできたのだ。胡蝶しのぶさんにも会ってみたかった私は、姉弟子の頼みに了承した。因みにまだ甘味は私が持っている。
甘味どうしよう、姉弟子が寝ている上に置いておけばいいのか。と私が考えていると禰豆子ちゃんが私の太腿に寝転んできた。

「あ、禰豆子」
「いいのいいの。禰豆子ちゃん、前にしたの覚えてくれていたんだね、ありがとうね」

炭治郎と分かれる前、土砂降りの雨のせいで藤の家紋の家で休憩した時に交わしたやり取り、禰豆子ちゃんは忘れてなかったようだ。

「禰豆子ちゃんは可愛いね」
「うー」

私の太腿に禰豆子ちゃんの頭がある。猟奇的な意味ではなく、禰豆子ちゃんが私の太腿を枕にして横たわっているのだ。

「いい子いい子」

慈しみを込め、禰豆子ちゃんの小さな頭を撫でる。髪を梳く。まるで絹のような感触だ。自然に声がやさしくまるくなる。愛しい気持ちがどんどん胸から湧き上がってくる、不思議だ。
鬼は嫌いだけど、禰豆子ちゃんは好き。多分感情で好き嫌いが決まっているんだと思う。幸いなことに禰豆子ちゃんは私の顔を記憶しており、更には懐いてくれている。素直に嬉しい。好きな人から好かれるって、凄く嬉しい。

「今更だけど炭治郎、怪我したんだってね。大丈夫?えーと那田蜘蛛山?だっけ、鬼が出たの」
「ああ、強かった。俺一人の力じゃ全然勝てなかった。禰豆子と冨岡さんがいなかったら、負けていたよ。あ、冨岡さんって言うのは俺の兄弟子なんだ」
「冨岡って、水柱の冨岡さん?」
「知っているのか」
「うん。大体柱の名前は知っているよ。師匠が柱好きでさ」

師匠は厳つい顔の男の人で、柱の情報を収集している変わり者だ。なんでもすぐ柱の面子が変わるから、残しておきたいらしい。わからなくもない、あっという間に移り変わるものは儚く思う。それを残したい気持ちも。しかし、だからといって情報を流してくるとはどうか。どうせ大した情報ではないし。私たちが旅立ったからといって、暇になるわけじゃないだろうに。
姉弟子は興味がないようで、師匠の情報部分には触れず、師匠の近状だけをあの手紙から読み、あとは読まずに燃やしているとのことだ。私も姉弟子を習って燃やしている、流石に不味いし。

「名前」
「うん?」

名を呼ばれる。
炭治郎に隊服の上から首を撫でられた。

「え?どしたの、急に」
「……あ!ごめん、不躾だった!」
「まさか虫!?いやだな!ね!どうなの炭治郎!」
「いや……」

なんだか歯切れが悪い。
本当に、む、虫?成る程、私が騒がないように口籠っているわけね。虫がいたという事実だけで騒ぐ私に気を遣っていると。
いや流石炭治郎、気遣いが出来る。私には真似することが出来ない、絶対騒いで逃げる。こういう思い遣りを持つのが大切なんだよなあ。私も頑張ろう。禰豆子ちゃんの頬を撫でながら、気合いを入れた。




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