たまたま、炭治郎が苦手で私がちょっとだけ得意な嘘をつかなければいけない機会があった。
嘘。誤魔化し。この世に鬼がいるなんて、実際に被害を負わされた人たち以外信じない。私たち鬼殺隊は、信じていない人たちにとって、あり得ない巫山戯たことを言い、そう振る舞う奇怪な集団でしかないのだ。だから日輪刀を隠したり、夜に行動するのを不審で疑わしいものを見る目で見られるのも仕方がない。かなしいけれど。

私は生きている。今日まで我武者羅に踏ん張ってきたから。

朝から鎹鴉が任務を言い渡しにきた。初めて喋った時は肝が潰されたが、慣れてくると鎹鴉はそれなりに可愛い。
鎹鴉に言われるがまま目的地に向かっている途中、私は炭治郎と再会した。どうやら同じ場所を任務の指定にされたらしい。私と炭治郎が行動を別々にしてから初めての再会だったので、顔を合わせた時、私たちはお互いの無事を喜び合った。
空白を埋めるように道中、今日までのことをお互いに話し合った。その途中だ、私と炭治郎が男の人に不可思議なものを見る目で呼び止められたのは。

私の言葉にあぁそうだったのかと納得した男の人の脇を炭治郎と一緒に通り過ぎる。この人は一体なんだったんだろうと思いながら前を向く。平坦な道だ。田んぼがあって、その向こうに家がある。田んぼがあって、家がある。景色の繰り返しだ。進む方はずっと平坦な道が続いているのが分かる。男の人に声をかけられた途端、どこかへ飛んでいた鎹鴉が二羽、私と炭治郎の元に帰ってきて、このまま直進しろと鳴く。この先に村でもあるのだろうか。それはいつ見えてくるんだ。

「名前、ありがとう。助かったよ」
「え?……ああ、ううん。なんてことないって!気にしないで」
「俺は全く言葉が思い浮かばなかった……」
「まあ、うん、向いてないんでしょ」

炭治郎は、嘘が下手だ。背が高くなっていたけど、人間そんな急に変わらないので中身は別行動する前の炭治郎とあまり変わりなかった。おろおろと嘘を吐こうとする炭治郎の顔に私は安心感を覚える。

「炭治郎が出来なくて、私に出来ることがあったら私に任せて!代わりに私が出来ないことがあったら、炭治郎に頼むよ」

胸を張って言ってみたが、よくよく考えなくても私に任せられる機会が少なすぎる。努力家の炭治郎が出来ないことはほぼほぼ私も出来ないだろうし。炭治郎の方が強いし。これ意味のある言葉か?炭治郎に負担が行き過ぎるとしか思えない。発した言葉を早速後悔し始める私に、炭治郎がきりりとした頼もしい顔になる。

「ああ!どんどん頼ってくれ。俺も名前をどんどん頼りにするから」
「う〜ん、はい」

撤回出来ない。どうにも炭治郎を相手にすると、嘘と誤魔化しのキレが鈍る。嘘を吐くと地獄に堕ちるから、滅多に吐かないことにしているのでキレも何もないが。太陽のように眩しい炭治郎と、本物の太陽に身をやられながら進む。夜が来るまでに任務先につけばいいんだけど。



前へ次へ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -