炭治郎と並んで道の端の方を歩いていると、ぐいと炭治郎に肩を引き寄せられる。炭治郎の足がいつの間にか止まっていたから私も足を止めた。太陽の絵が描かれた耳飾りが、私の視界の上で揺れている。何だ何だ、どうした。周囲を見渡すと後ろから柄の悪そうな男が、じろじろと私たちを睨みつけながら追い越していく。 え。なんだ一体。どうしてあの人こっちを睨んでいるんだ。私ははて何かしただろうかと炭治郎の顔をちょいと顔を上げて伺う。
「どうしたの」 「いま通り過ぎていった人と、名前がぶつかりそうだったんだ。急に引き寄せてすまない。ふらついてて大丈夫だろうか」 「お酒の匂いはした?」 「していない。うーん、病気かもしれないな……」 「顔色は良さそうだったよ。石に躓いたん、じゃないの……」
石、躓く。私はあの日の羞恥を思い出して、一人呻き声を上げる。 おそらく。おそらく、だが。 あの男は、最近出没する少女の体を不躾に触ってくると噂の男だろう。先程女性二人が噂しているのを耳にした。すっと寄ってきて尻を触る。はあ、なるほど……。不快だ……。炭治郎がいなかったら私も被害にあって、いただろうか。鞘に収められた日輪刀で暴力を振るっていたかもしれないから、炭治郎に感謝しかない。人間相手に暴力を振るったら、いけないし。
「ありがとうね……」
炭治郎がきょとんとする。
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