01



肩に触れる。あの日は傷は深かったにも関わらず、きれいさっぱり跡なく完治した。父から与えられた傷薬が良かったんだと思う。
傷はなくなって、猛反省したこともあり、あの日は油断した私が悪かったのだと結論を出した。私の中でもう終わった出来事、過ぎていった苦い思い出、身をもって知った教訓として納得した。
でも、やっぱり私は怪異を憎めないでいる。傷は痛かったし、嘘を吐かれた事実に凹んだけれど、どうしても憎悪を抱けなかったのだ。心中を唯一打ち明けた兄にも変わり者と呆れられていた。輝には何も言っていないが、聡明な彼のことだから、私の考えが変わりないと見透かされているだろう。
輝はどうだろう。あの日から特に変わった様子は見られない。取り乱していた過去なんてなかったと言わんばかりに、いつも通りの振る舞いをしている。その輝の態度に安堵する。もし輝が怪異に対して更に過激になったり、私に接する態度を冷たくしていたら、仕方ないとしても私は責任を感じていたから。
肩から手を離す。
遠くで雷が走る。
夏の気配を感じる度、怪異と相対する輝を見る度、あの日のことが私の脳裏に浮かんでは消えてゆく。

「終わったな、行くぞ」
「うん」

兄が手に持っていた退魔具を専用の容器に素早く仕舞う。私も兄のようにはいかないが、習うように仕舞った。二人で同じ祓い屋や付き添いの人たちが固まる場所へ行く。

「さみぃ〜」

兄の顔は真っ赤だった。おそらく私も同じ様だろう。着物しか身に纏っていない状態で、こんな寒々しい冬を歩いているのだから寒くて当然だ。途中でこちらに向かってきた付き添いの人から預かって貰っていたコートを受け取るが、顔と足元がまだ寒い。集団の近くに辿り着いた。が、すぐに帰宅出来るわけではないので兄と身を寄せ合い、大人たちの話し合いの終わりを待つ。

「名前」
「輝」

怪異にとどめを刺した輝がこちらに合流してきた。輝は着物に薄っすら汚れをつけただけで無傷だった。

「オレは無視か?」
「徹さん、お疲れ様です。先に名前の方が目に入りまして、申し訳ありません」
「おま、お前、本当に……本当に」

怪異を消滅させたばかりとは思えないほどの穏やかな笑みだった。兄は輝の言動にいつも通り、うんざりした顔をして、文句を言おうとした口がやる気をなくしたようにごにょごにょ閉じる。肩を落とす兄からまた私の方へ輝が意識を向けてくる。

「どこも怪我していない?」
「うん、怪異はこっちこなくてほぼ出番なかったから」
「そっか」

輝が顔を少し明るくする。優しい。私は不謹慎だが、輝に心配されて嬉しくなってしまう。構って貰うのが好きだから、不謹慎だとわかっていてもつい。輝は付き添いの人に声をかけられて、輪の中に入って行く。ならばと私が察すると同じくらいに私と兄の方へ別の付き添いの人がやってきて、「徹さま、お呼びです」と兄に告げた。

「ああ、じゃ、待ってろよ名前」
「分かった」

素直に頷く。兄の体温が離れていき、訪れた寒さに身を震わせる。吐く息は白く、空気は冷たかった。

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