※捏造。
※那田蜘蛛山に出てきたポニーテールの隊員の夢。
※短いです、あまりにも情報がないので。


任務から帰ってきた私は尾崎さんが死んだことを知る。遺体はすでに燃やされて、遺灰は墓場に納められてあると。
蝶屋敷で私は事実をきかされる。ああ、来るのが遅かった。

私と彼女は同期で、藤襲山で七日生き長らえた仲だ。女の子同士で気もあったから仲良くなるのに時間はかからなかった。一緒に任務に行ったこともお昼ご飯を食べに行ったことだってある。手だって繋いだ。揃いの髪型にもした。

鬼に家族を殺された私は、鬼殺隊の隊士になるしか道が残っていなかった。身寄りのない小娘一人が生きていけるくらいに稼げる仕事なんて、この厳しい世の中ではかなり限られてくる。というかほぼない。朝を迎え、家族が殺害された絶望とこれから先の不安から途方にくれる私に、恩人の鬼殺隊士の方は同情からか、育手の四恩さんを紹介してくれた。憎い鬼を殺せるし、殺せば殺すだけ給料が支払われる。と説明を受けた私は鬼殺隊に入隊することを決めた。幸い、少しだが才はあったようだ。

尾崎さんは、姉に似ていた。
顔立ちは似ていない、しかし真面目で他者を思いやるやさしさが姉を思い起こさせた。
私は別に姉が大好きだったというわけではないが、この世にいないだけで随分愛おしく感じるもので、たまに姉が恋しくなる。
尾崎さんのことは、もちろん尾崎さんとして好いているけれど、どうしても姉の影が勝手に付き纏う。いけないと思う。思っていたのだ、本当に。

尾崎さんがしんだ。
那田蜘蛛山の鬼に殺された。
彼女が那田蜘蛛山に向かった頃、私は恐らく那田蜘蛛山から遠く離れた土地で鬼を殺していた。
鬼、どんな鬼だったろう、いつも私は怒りでどんな風に殺したのか曖昧だ。手だけがいつも気色悪い感覚を覚えている。
尾崎さんを殺した鬼はすでに討伐されており、私の大切な人を奪った仇はこの世を探してもどこにもいない。いつも私はそう、大切な人の仇をとらないでいる。家族を喰った鬼だって、当の昔に消滅していた。
悲しみに襲われる。遣る瀬無い。
高く一つに結われた髪、聡明な眼差し、白い肌、温かな手、丸い声色。私はやっぱり思い出せるのに、もう二度と触れられない。触れたとしても、それはびっくりするほど冷たい石か、物言わぬ残骸だ。
尾崎さん、一緒に着物を選ぼうねって約束していたのに。……していたのになあ、後回しにしなきゃよかった。


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