祝いあれ | ナノ


▼ 見顕す前

あの本丸はどこかおかしい。

同田貫正国は持ち帰った資材を脇に抱え、本丸へ通じる道を歩きながら思う。
一本道を囲むように存在する威圧的な木々などに目をやらず、ずかずかと乱暴な足取りで進む姿はまるで獣だ。
一目見た人間が思わず悲鳴をあげ、逃げ出してしまう光景が浮かぶ程度には、表情やら姿は恐ろしい。
しかし、ここは時代と時代を繋ぐ、あるいは空間と空間を繋ぐ道だ、そんな人間など、存在しない。
いたとしても、それは同田貫正国の主である審神者だけだ。

審神者。

同田貫正国――同田貫の主は、女だ。
いつも和服に身を包んでおり、無口であまり目立つこともしない。
最初は女だと見くびっていたが、戦闘時の指揮や戦前の準備の手際の良さを見ていき、今では従うに値する主だと同田貫は評価を改めている。

さて、同田貫がおかしいと違和感を感じる本丸の話をしよう。
審神者の本丸は広い。とにかく広い。前に同じ国の審神者の本丸に行ったこともあるが、あそこの本丸はここに比べるとやや狭かった。
あちらの刀の数は三十振以上。こちらは同田貫一振り。あきらかにこちらの方が少ないというのに。
余談だが、審神者の部屋は手入れ部屋に近い。同田貫はといえば、近侍であるため審神者の部屋の隣である。
話を戻そう。
部屋数が多いと、ふと思ったいつかの同田貫は空き部屋を見てまわったことがある。
空き部屋は当たり前に者が何一つなく、中に入ってみても、使われていないからか空気が違うだけで、特に何の面白みも異変もなかった。
しかし、よくよく室内を見てみれば、柱に切り傷らしきものがあったり、気にかかった押し入れを覗いてみれば、隅に糸くずらしきものが落ちていたのだ。
その糸くずは、審神者の好む色ではないと同田貫は首を傾げた。
柱の切り傷だって、あの審神者の仕業とは思えない。糸くずを弄びながら、どういうことだとこんのすけの元に向かう。
こんのすけとは審神者になると同時に与えられる管狐だ。
その時昼食の準備をしていた審神者の邪魔をするわけにはいかなったので、その補佐に聞くことにした。
けれど。

「…同田貫正国様、柱の傷の原因も、その糸くずが何なのかもわたくしにもよくわかりません、調査の為にこれをお預かりしてもいいでしょうか?」

はっきりとした答えは、返ってこなかった。
その上、審神者に聞く為の証拠も持って行かれてしまう始末。
しかもこんのすけもあれから現れていない。

「………」


結局あれらは何だったのだろう。
審神者に関係ないものならば、自然とこんのすけか、同田貫のものということになる。

「あの狐は服着ねえし、そもそも何も持てないだろ」

あの手では、こんのすけは咥えるしかないだろう。
自分はもちろん除外される。
ならば、あれをやったのは、あの傷をつけたのは誰だ。
本丸が中古だという可能性はない。
確信はある。審神者がそう言ったからだ、審神者の真偽はなんとなくわかる。故に「この本丸は私が就任した時からの付き合いです…」との言葉を信じた。

「わっかんねーな」

がしがしと苛立ちから空いている手で頭を掻き、同田貫は獣のように唸る。

そうこう思考している内に、本丸の門が見えてきた。
片手が塞がっているが、開門するのにたいした障害ではない。
ぎぃと音をたてながら、門を開く。

「おかえりなさいませ」

するとそこには、出迎えるように審神者がいた。
藍色の着物か、今日は。
見たままの感想を思い、同田貫は資源を抱え直す。

「おう」
「資源、ありがとうございます。鍛刀部屋に置いてください」
「わかった。いつものとこだな」
「はい、怪我は?」
「してねえ」

そして、最大の謎は。

同田貫正国以外の刀剣がいないことだろう。



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