前に読んだ本の内容を思い出せる。
ひょんなことから過去に戻る術を手に入れた主人公は、過去に『しでかしてしまい』恋人と別れた出来事を、綺麗さっぱりなかったことにしようとして過去に飛ぶ。
過去の自分がその出来事を上手く処理できるよう影から手を貸した主人公は見事、その『しでかしてしまった』過去を無かったことにして見せた。
満足した主人公が過去から戻って来る。
未来は変わっていた。悪い方向に。
ゴールドは本を読み終えた時、真っ先に切ないなあ、と思った。
頑張って過去を変えたのに、その恋人と共にいるとぶつかってしまう悲劇があるなんてあんまりだろう。
それに悲劇とか。
どうして更に酷い事態にならなければいけないのか。
主人公と恋人が一緒にいて起こる悲劇の辻褄はあっていた。
かといって、納得できるわけじゃない。
たかが本の内容だと言う人もいたが、ゴールドはたかがとは思えなかった。

過去を変えるのはやめた。
元々、そんなことをするつもりもないが、あの本を読んだ後にそんなことをする気にはならなかった。
……過去に戻る手段と方法は、なくもない。
が、相手がどうなるかわからなくて不安であるし、もし過去を変えてあれがもっと取り返しのつかない出来事になっていたら今より更に後悔してしまう。
なら、どうしようか。

悩む間にゴールドの中にある罪悪感は大きくなっていく。
背負う必要のないそれをゴールドは下ろそうとしない。
おそらく身動きが取れなくなっても、自身がもういいと吹っ切れるまで、相手にもう大丈夫だと言われるまでは下ろそうとしないだろう。
そう決断してしまったのだ。
ゴールドの気持ちを知らない相手から許されるのが先か、自身の頑固さに潰されるのが先か。時間との勝負だった。

答えが出ないまま、ゴールドは旅に出れる年となった。
こんなに考えたのにも関わらず、いいアイデアが浮かばないなんて、自身が嫌になる。
ポケモンを育てるのは楽しかった、バトルも燃えるしだんだん強くなるのだって。
ゴールドは才能があった、努力を惜しまぬ性格だ。
戦う度にめきめきと力をつけ、あっという間に立ち塞がる相手を次々倒していく。
正義感が強く、責任感もあるゴールドは逃げ出すことなく、着実に事態を収束させていった。

……強くなればいいのではないかと、ある日思う。
ゴールド自身も、あの日の手段に使われたというポケモンのバトルにも。
そうしたら、そうすれば、かなしまなくていいのだろうか。
目の前ですっと姿勢のいい少女が、ポケモンをモンスターボールに戻す。
うつくしい青の瞳が、まっすぐ前だけを見ている。
全くしつこいなあと呆れたような声色は溌剌さが見え隠れしており、耳にしたゴールドの過去を柔らかく刺激する。

「私はブルー。あなたは?」
「……俺はゴールド。初めまして」


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