マーちゃんとレモンちゃんは、二人で遊ぶことが多くなった。
「マイカちゃん、こっちこっち!」
といっても、レモンちゃんが強引に連れ出しているだけなんだけど。
ぼくとリーフの元にマーちゃんが遊びに来た。
どうしたのかと聞けば、今日はレモンちゃんがいないらしい。
清々と答えるマーちゃんに、ぼくは小さく頷いた。
久々に三人でいつもの所でポケモンとじゃれていればリーフが、
「マイカは、レモンのこと、好きなのか?」
思い切ったように、そうマーーちゃんに切り出した。
マーちゃんは、急な質問に目を丸くする。
固まったかと思えば、抱いていたコラッタを地面に下ろし、首を振った。
左右に大きく。
「私、ああいう子、大っ嫌い」
ぼくはコラッタを抱きながら、マーちゃんの拒絶を聞く。
そういえば、はっきりとした「嫌い」を聞くのは虫ポケモン以来かも。
マーちゃんは何だかんだ「嫌い」と口にする事は少ないのだ。
つまり、レモンちゃん=虫ポケモン?
…想像してしまった。
身震いするぼくを尻目に、リーフがマーちゃんの心へ更に踏み込む。
「じゃあ、何でレモンと遊ぶんだよ」
疑問そうにリーフは言う。
ぼくはコラッタを撫でながら、マーちゃんの方を向く。
そして、思わず固まった。
マーちゃんが、無表情を、初めて会った時の光のない目をしていたから。
突き刺すような寒々しい空気へと変化したのに気付いた。
重苦しく身体が圧迫され、強張る。
怖い、と漠然に思った。
ぼくたちを気にせず、無になるこのこが。
マーちゃんの唇が左右に吊り上がって――歪む。
「好きになろうとしてるの」
……何といえばいいんだろう。
声には、感情らしきものが見当たらなかった。
かといって、零でもなかった。
マーちゃんは、ぼくらの反応にはっとする。
ぼくとリーフに視線を回して、気まずそうに俯く。
これがどうしたらいいのか分からない時の、マーちゃんの癖だと分かったのは何時だったかな。
「まぁ、ゆうこうかんけーを築こうと思ったんや……」
たどたどしく締め括ったマーちゃんが、コラッタを再び腕の中に収めた。
ぼくは何も言えない、絶句したまま。リーフもそう。
もう、ぼんやりだけどマーちゃんがここに来た理由を、ぼくらは知っていた。
大人たちは全て知っている。
けど、詳しいことは教えてくれない。
多分それだけ突くのが危ないんだろうと、リーフが言ったのを覚えている。
前は色々喋っていたおじさんたちも口を開かなくなって。
…だから。
初めてぼくとリーフに会ったマーちゃんの反応は、前提に考えれば当たり前で。
ぼくはお母さんの言葉を理解した。
「マーちゃん」
君の名前を呼ぶ。
君は罰が悪そうに、ぼくを見る。
うん、そっか、そんな表情も見せてくれるようになったんだ。
「ポケモンフーズあげる?」
「え、…おん」
「いいよね、リーフ」
「、ああ!ほら」
小さく頷いたマーちゃんを見ながら考える。
どうして、そんなにレモンちゃんを嫌うかを。