「ねー、ファイア君、レモンもマイカちゃんと遊んでもいい?」
マーちゃんの存在が本格的に表立ってきた頃。
にこにこと、近所に住むレモンちゃんが、話しかけてきた。
マーちゃんの家に行く途中の道での出来事にぼくとリーフは同時に顔を見合わせる。
レモンちゃんの言葉に、リーフがぼくを引っ張って、くるりと方向転換、レモンちゃんに背中を向けた。
ぼくへ顔を寄せたリーフが、どうする?と心配そうにきいてきた。
この心配はぼくへじゃなくて、勿論新しい友だちへのもの。
「マイカ、ぜってー嫌がるぞ」
「…嫌がるね……」
簡単に想像出来る。
意外とリーフとマーちゃんは仲良くなったから心配しているんだろうな。
…ぼくとマーちゃんも、仲がいい。
時間はかかったが、たぶんリーフよりも。
リーフが薄く頬を上げて、首を左に傾げる。
「でも、まぁ、あいつも友だち増やさないとな…」
お節介な性格のリーフらしい言葉を紡ぐ。
……遠回しにぼくに言ってるのかな…。
目を逸らして、黙りながら小さく同意した。
リーフがくるりと身体を元に戻し、レモンちゃんに言う。
「いいけど、あんま近付いてやんなよ」
「やったっ!」
レモンちゃんが無邪気に喜ぶ。
リーフはぼくの手を引いて歩き出せば、本当に嬉しそうに笑ったレモンちゃんがぼくの隣に来た。
ぼくを真ん中に、マーちゃん家に進む。
話をたくさんしながら、着実に。
レモンちゃんは、マーちゃんと正反対の子だ。
いつも明るくて、にこにこ笑顔。
おしゃべりで社交的だから、友だちがとても多いし、人気がある。
ポケモンが大好きで、いずれポケモンを持つのが夢らしい。
あ、でも、マーちゃんの方が優しいかな。
段々家が見えてくる。
見慣れた家の庭に回り込む。
窓からシャツにズボンと、こちらも見慣れたマーちゃんが見えた。
「マイカ」「マーちゃん」
同時に名前を呼ぶ。
振り向いたマーちゃんの、無表情が盛大に歪められた。
目線は予想通りレモンちゃん。
ぼくは見て見ぬふりをして、手招きする。
「一緒に遊ぼう」
そう告げれば、マーちゃんが口をへの字に曲げて、渋々外に出てくる。
本当に渋々。
リーフの吊り上がった口角が引き攣る。
ぼくの隣でにこにこ笑うレモンちゃんへ、一瞬だけ目をやり、マーちゃんはリーフの隣へ行ってしまった。
それをレモンちゃんが追いかけて、マーちゃんへ嬉々と話しに行く。
「………」
マーちゃんが問いかけにきちんと答えていることに、疑問が浮かんで首を傾げた。
けど、その疑問が何なのかは、分からない。
分からないまま、ぼくらはいつもの遊び場所に向かう。