一つのモンスターボールを選ぶ。
「この子にします」
オーキド博士が大きく私の言葉に頷く。
とても満足げな様子で、安堵の溜息が自然と出た。
まるで耳に心臓があるような程、ドキドキしながらボールを撫でる。
よろしくねという意味を込めながらそっと。
ボールが小さく揺れた気がした。
「おっし!マイカの次は俺な」
「うん」
背後でじゃんけんをしていた二人の間に決着がついた。リーフがす、と左側に立つ。
身長は少しだが、私の方が高い。
そしてそれをリーフは気にしていて、私の横に来ることは滅多にないのだけれど。
今日は違うみたいだ。
余程ポケモンを貰えるのが嬉しいんだろう。
浮かれ気味のリーフに場所を譲り、ファイアの元に向かう。
ファイアが「マーちゃん」と私を呼んだ。
「ファイア、最後だね」
「じゃんけんに負けたからね…でもどんな子でも僕は嬉しいよ」
「そっか」
真っ直ぐな目でファイアは、ボールを見据えていた。いつも通りの無表情は、どこか輝いて見える。
あぁ、ファイアは本当にポケモンが好きなんだ。
しみじみと、再確認。
「マーちゃんは、どの子にしたの?」
「内緒」
「……」
「内緒ったら内緒」
どうせすぐに分かるよ。おそらく。
「よっし!俺こいつ!…ほらファイア、お前のポケモン、とれよ」
「ありがとう、リーフ」
意気揚々とリーフは身体をこちらに向け、ファイアにボールをとるように言う。
素直にファイアが、ボールの方に行き、ボールを優しい手つきで取った。
これで全員がポケモンを手にした。
あとは冒険に出かけるだけだ。
そう意気込んでいれば、リーフが「ファイア、ポケモンバトルしようぜ!」と張り切りながら言い出して驚く。
更にファイアが、それに「いいよ」とノリノリで了承するから二度驚いた。
どうしてバトルしようと思ったんだ。理由を聞いてもいい?
「あの、オーキド博士」
止めて欲しいんですが、の意味を込めて視線を送れば。
「いいじゃろう!」
輝かしい笑顔でバトルの許可が下ろされた。
止めてくれなかった。
巻き込まれたくない一心で、私はそっと部屋の隅へ逃げる。
三人は盛り上がってて気がつかない。
よかった。
よくわからない巨大な機械と機械の間に身を潜め、三人の様子を伺う。
対峙する二人が、同時にボールをぎこちなく投げる。
…まだレベルが低いし、ここ広いし、きっと何か特別な素材が使われているはずだし。
なにより博士がいるから大丈夫。きっと変な事態にはならない。
大丈夫だいじょうぶ大丈夫………。
出てきたポケモンを見ながら、私はバトルが終わるまで心中でそう唱えていた。