「名前ちゃんって思ってたけど少食よねー」

お誘いを受け、衛宮邸で食事をしている最中、藤村先生がそんなことを言ってきた。
斜めにいる藤村先生を見ながら、口内の食べ物が無くなるまで咀嚼を続ける。
食べ物を口に入れたまま喋るのは行儀が悪いから、きちんと最後まで。
ごくんと全てを呑み込んでから、私は口を開く。

「そうですか?」
「そうだよ、だってほら、おかずの量が違うし、ご飯だって私より少ないもん」

おかずの皿をほらほらと藤村先生の皿と並べられる。
食べた分を加算しても、確かに私の方が少ない。
…ちょいちょいしか夕飯に参加していないというのに、よく私の事を覚えてるな、この人。

「まぁ、どちらかといえば少食かもしれませんね。食欲はあるんですけど、胃の容量が足りなくて」
「ふむ胃が足りないねぇ」
「本当はもっと食べたいんですけど、そういう意味では藤村先生がうらやましいです」
「いやー照れちゃうなあ」

てへへと頭を左手で掻く藤村先生。
この人、夕飯前、私の持ってきたいとこのお土産のお菓子を結構食べていたはずだが。
……藤村先生には、安らかな食卓の雰囲気を守るため、このことを言わないでおこうと決めた。
ちらりと先生の前に置かれた夕飯の量を見る。……やはり、私の方が少ない。
おかしい、私は夕飯前に何も食べず、衛宮士郎の手伝いをしていたのに。謎の敗北感を味わう。
……ちらーと衛宮士郎の方を、詳しくは膳を見る。……多い。年頃の男の子らしく、衛宮士郎はご飯の量も、おかずの量も多かった。うん、健康そうでなにより。
少し悔しいが男の子と女の子の身体を比べてはいけない。
あらためて、そう思った。

「ねえー名前ちゃん、士郎のご飯美味しい?」
「え、はい、美味しいです」
「だって士郎!よかったじゃない!」
「ぶっぐ、げほ…っ」

元気いっぱいの笑顔を藤村先生から向けられた衛宮士郎が、突然お茶を喉に詰まらせた。
口から出ないように手を当てながら、必死に咳をしている。
慌てて箸を置き、衛宮士郎の背中を擦りながら、ティッシュを差し出してみた。
「大丈夫?」じゃないだろうけど、確認は大事だ。

「げほ、げほっ、いっ、ち、おう゛…はっ」

おぉ、無理に答えさせてしまった。ごめんなさい。
ティッシュを受け取り、落ち着こうとする衛宮士郎のつむじを見つめる。
筋肉がついている硬い背中を、咳が治まるまで撫で続ける。
そうして少し落ち着いた頃、衛宮士郎は藤村先生を睨み付けた。

「ふ、藤ねぇっ!なに、なにいって…っ」
「んふふー、今士郎嬉しがっているね!」いや、苦しがっていますけど「お姉ちゃんには丸わかりなのだ!」曇ってますか?

えっへんと胸を張り、誇らしげな藤村先生に内心、ツッコミを入れる。
まだ違和感が残っているのか、衛宮士郎は藤村先生の言葉に何も言わなかった。
藤村先生が見当違いなこという訳ないと思うけど、流石に嬉しがってはいないでしょ。
咳も治まったので、撫でていた手を離す。
中々の筋肉でしたな。なんて変態っぽいことを考えながら、いそいそと用意された食卓の席へ戻る。
放りだしたとも言える箸を持ち直し、食べ途中だったおかずを口に運ぶ。
藤村先生は楽しそうに衛宮士郎の方を見て、サラダを食べている。
…一方の衛宮士郎はといえば、拗ねたような表情で口をティッシュで拭いていた。
何故拗ねているんだ、この思春期男子は。
訳わからないと首を傾げていれば、藤村先生から声が上がる。

「あれー?士郎照れてる?」
「っ照れてない」

にやつく声が即座に否定される。
……照れているらしい。
照れていたんだ衛宮士郎。しかし一体どこに照れる要素があったというんだ。
先程からこの衛宮少年は挙動不審すぎやしないか?
いきなり(藤村先生曰く)嬉しがって、いきなり照れだす。
いや挙動不審ではなく、情緒不安定?

私はきゃっきゃっと戯れる二人を仲いいなと思いながら、味噌汁に口をつけた。



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