「夕飯、一緒に食べないか?」

これで、何度目のお誘いか。放課後の廊下で思う。
声の主は分かる。そもそも私に話しかける男子は少ない。
「え?」…振り向けば案の定、彼だった。
ここでの衛宮士郎は私に親しみを持ち、かまってくれる。
…かまいの一環に、共に食事をとることが入っているらしい。

「いいの?お邪魔して」
「あぁ、今日はバイトがないし、それに、最近家に来てないだろ?」

そりゃ間桐さんがいるからね。

「そうだったっけ」

申し訳なさそうにとぼける。
表情を取り繕うのは得意だ、いや得意になった、という表現が適切かな。
衛宮士郎はそうだ、と頷く。
…思い返してみれば、確かに衛宮家に行った記憶が朧げだ。
随分前に行った以来、寄り付いていないようである。
しかし私にもいかない理由が存在するのだ。

理由は、間桐桜。
衛宮家に朝ご飯と夕ご飯の手伝いをしにくる、衛宮士郎の可愛い後輩。
気はきくし、穏やかだし、何より美人。癒し系だという呼び声も高い。
だが、私にとってはそんな可愛い存在ではない。
あまりはっきりとは言えないが、ゴーゴーでくぅくぅとだけ言っておこう。トラウマの一つだ。
しかもここでは衛宮士郎に優しくされているため、時々こう複雑な瞳で見られ、身体が凍えまくっている。
気を失いたくなるほどに恐ろしい。

さて、どうしよう。色々な理由をつけて断われるけど。
ちらりと様子を伺えば、彼は可愛い表情をして、私の答えを待っていた。
期待と諦めが入り混じった顔。
そんな顔見たくなくて、用事もなく腕時計を見る。

「…じゃあ、お邪魔させて頂こうかな、いつ頃いけばいい?」
「!そうか!よかった、あ、いや、このまま来てくれればいいって!」
「そう?本当に大丈夫?やっぱり遅れて行った方が良かったり…」
「大丈夫だ!うん大丈夫!」

私の返答に喜んだと思ったら、ぱっと彼が顔を赤く染め、どもったため、
家に厭らしい本でも出しっぱなしにしているんじゃないかと心配して言ってみたが、
どうやら余計な心配だったようで元気よく大丈夫だと断言された。
…家主が大丈夫っていうんだから、大丈夫なんだろう。
なんとなく釈然としないが、一応納得しておく。

「途中で家に寄ってもいい?」
「?いいけど…なにか用事があるのか?」
「うん、ちょっとね」

ちょっと、いとこに貰ったおみやげのお菓子があるのだ。
それも一人では到底処理しきれない程の量が。
いや、出来なくもないけど、全て食べると、その、体重がね。
だから男の子に助けてもらおうとおもった次第だ。
後は洗濯物。朝から干しっぱなしだし、仕舞わないと冷えてしまう。

「じゃあ、行こっか」
「、ああ」

ちらちらこちらに視線を向けてくる生徒たちを煩わしく思い、衛宮士郎に早く行こうという意味で帰宅を促す。
息が詰められたことはわかった、けど、背を向けていたからその表情はわからなかった。




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