「……はじめまして、近所に越してきました。名字名前です。よろしくおねがいします」
「……あ、どうも、衛宮士郎です、よろしくお願いします」
「あ、これどうぞ」
「あ、どうもありがとうございます」


世界は神秘に満ちている。
だから私がもうXXXX回目のループに入ったのも、なんら不思議なことではない。
むしろ一般世間でループは、不可思議な出来事の中でスタンダードとも言える要素である。
不思議でミステリアスな物語に、スパイスとして加えられる要素だ。
主人公が同じ期間を何度も繰り返す、ループに挑む小説は読者を大いに楽しませる。
そう、小説であれば。

私がループによって受けている肉体的、精神的な苦痛は現実だった。逃れようもない現実。
その原因は、自分自身にあった。過去の自分自身の勝手な願望により、こうなったので文句は言えない。
しかし、昔のループ中盤の私はそれを先程あった衛宮士郎のせいにして、彼を嫌っていた時期があった。逆恨みかよと今となっては、その時の自分の頭を叩きたい気持ちでいっぱいだ。
あーもう、愚か者め。
…こう厨二病だった人が、昔の自分の言動を思い出し、悶えるような感じだの現象だと思ってほしい。

「……会ってしまった」

立ち話もなんだし、上がってくださいという彼に、他に挨拶するのでと私は断り、今粗品補充に家に戻ってきた。扉を閉めて、力無く床に倒れ伏せる。


……衛宮士郎。
エミヤシロウ―――。

あの赤茶色の髪、幼い見知った顔立ち、まだ筋肉が完全につききっていない身体。
未来の彼とは似ても似つかないが、幼少期の彼がそのまま成長したような姿は。
なつかしい。
うっかりと感傷に漬かってしまった、溜息をつく。


ここが、ゲームの世界だと気付いた時、私は絶望した。
さらに死んで、また絶望した。
死。死に、死んでも、いつのまには私は、生き返り――。
随分と時が経った頃、私という何かは自分に関する事実を知る。
…私の死は、世界を捻じ曲げるためのもの。
歪みを正しいと思わせる暗示の意味を持つ。
そうだと、この永い時間で理解した。
キャラたちに関わる時間が長いと、比例するように歪みは大きくなっていく。
歪みが大きければ大きい程、早く死が来て、歪みが小さければ小さい程、遅く死が来る。
実に分かりやすい仕組みだ。

「……」

さて、話を変えて、私の悩みに移行しよう。
実は私、長く生きすぎてか、永く苦痛に晒されてすぎてか、自分自身の勝手な願望を忘却してしまったのだ。
大切で、大事だったはずの願い。
それを忘却するなんて、と呆れ返る思いである。多分、それ関係で衛宮士郎を嫌いになったから、衛宮士郎に関することなんだろう。
全く覚えがないけれど。
それ以外はばっちり覚えている。
あははーそっち忘却してよこの脳みそ。
まぁでも、あんまりキャラと関わらないようになっているし、気長に思い出していこう。
けど、思い出さなくてもんじゃないか?とも、私は思っているのだ。


あれから、一年もたった。
関わらないだろうと楽観視していた私の元、衛宮士郎はやってきた。
関わらない所か彼は、両親がいない私に親近感でも感じているのか、よくおかずをわけてくれたりして、かなりよくしてくれている。
彼の料理はとても美味しい。
夕飯に誘われた際、ほいほい家にあがり、共に食卓を囲んだこともある。
ありがたい限りだ。
ついでとばかりに料理も教えてもらった。
一人暮らしには料理が必要不可欠だしね。
時々、間桐桜(このこで何回か死んだ)に複雑そうな瞳で見られる時もあるが、なんとか生きている。

「………」

……というか、彼がどうしてか前の世界の彼たちよりも、ひどく構ってくるのが不思議だ。
前の彼たちは、なんというか私の事をモブぐらいにしか思っていないような感じだったのに、今は……こう慈しみ、みたいな感情を持って、接してくれている。
……怖いが、正直嬉しい。人にやさしくされるのは好きだ。

ちなみに彼とは同級生である。しかも連続で同じクラス。
入学式の教室で親しげに話しかけれてた時は、本当に驚いた。
今では、名前で呼び合うような仲だ。

……この世界は、一体全体、どうなっているんだろう。
今までとは違い、私にとても優しい世界。

「名前、どうしたんだ?」
「…ううん、なんでもない」

なんでも、ない。



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