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「ぬおっ!?な、な、な、な、なんで!?」

「罪滅ぼしの機会をやろうと言ってるのだ」

「う゛…、で、ですよね〜。…はぁ、ひょっとして芹沢さんよりも怖い人に仕えることになっちまったんじゃないか?俺」

「何か言った?」

「い、いやぁ…別に。はっ、ははははは!」

笑ってごまかすぱちーにーだったけど、その予想は間違ってないかもよ?

サンタおじさまにはああ言ったけど、長年私をプレゼント抜きにした罪は重いんですからね。

さしあたって年末の大掃除からこき使おう、と私はほくそ笑んだ。

「ねー、おかーさん、『すみこみ』ってなに?」

話が飲み込めていないチビスケが仰け反るように私を見上げて聞いた。

「うちに住んでお手伝いをしてくれるということよ」

「えー!?ぱちーにー、うちに住むのー!?やったぁー!」

やった!やった!とチビスケは大はしゃぎ。飛びはねすぎて屋根の上から転げ落ちそうなチビスケをサンタおじさまが太い腕でひょいと抱えた。

「おい、坊主。トナカイのソリに乗りたくないか?」

「ええっ、乗せてくれるの!?」

「乗りたいか?」

「うん、乗りたい!!サンタさんがプレゼント配るお手伝いしたい!」

「ほーほっほっほっほっ!それは頼もしいな。よし、なまえ、おまえも乗れ」

「え?私もいいの?」

「おまえはロシアに送り届けてやる」

「ロシア…?」

サンタおじさまは意味深な目で笑った。

サンタおじさま、私の夫がロシアに単身赴任してるのを知っているの?

じゃあ、もしかして……私のこと、ずっとどこかで見守っていてくれたの?

「どうした?早く乗らんか。少し休憩しすぎた。朝までにすべてのプレゼントを届けるには急がねばならぬ」

「あっ、はい!乗れるかしら?よいしょっと……こらっ!ぱちーにー!逃げないの!」

隙あらば逃げ出そうとするぱちーにーをコートのボタン付きポケットに入れて、おじさまと私でチビスケを真ん中に挟むようにソリに乗った。

三人で座るには幅が狭くおしくらまんじゅう状態できついけど、その分あったかい。

「出発だ。坊主、サンタの笑い方は分かっているな?」

「うん。ほーほっほっほっ!」

「よしっ。では、行くぞ!ほーほっほっほっ!」

「「ほーほっほっほっ!」」

まさかもう一度乗れるとは思わなかったソリの乗り心地は、子供の時は気付かなかったけどかなりスリリングだった。



「おや…?」

「メリークリスマス、敬助さん」

ロシアで一人で寂しいクリスマスを過ごしていたはずのアパートを訪ねると、うちのパパこと敬助さんは丸眼鏡の奥の瞳を丸くした。

あ、申し遅れました。私、山南なまえと申します。

夫、敬助は薬の研究をしておりまして、現在ロシアの研究所で新薬の開発中なのです。

「どうしてここに?」

「ふふふ、サンタおじさまに送ってもらったの」

「パパー!」

パパ大好きっ子のチビスケが勢いよく飛びついて、10歳児の重さに敬助さんは少しよろめいた。

「おや、君も来たのですか。驚きましたね。サンタクロースがお義母さんの恋人だったという話は本当だったのですか?」

「あら、信じてなかったの?」

「科学者ですから。非科学的なことは信じない性質でね。ですが、自分の目で見た以上は信じますよ」

妻と息子がお世話になりました、と敬助さんは礼儀正しくソリで待っているサンタおじさまに挨拶する。

サンタおじさまは「うむ」と頷いた。大人に対してはあまり愛想はよくないのだ。

「坊主、そろそろ行くぞ!」

「あ、はーい!パパ、僕これからサンタさんと一緒にプレゼントを配るんだ!」

「それは楽しそうですね。気を付けていってらっしゃい。

サンタさんの言うことを良く聞いて、いい子にしているんですよ」

「はーい!パパ、またね!」

チビスケがソリに飛び乗るとすぐサンタおじさまはソリを発進させた。

ふわ〜っと浮いたトナカイとソリはどんどん空高く上って行き、あっというまに見えなくなった。

鈴の音とサンタおじさまとチビスケの「ほーほっほっほっ!」という笑い声を残して。

「なんとまぁ…」

「非科学的で信じられない?」

「ええ、信じがたいですね。夢でも見ているのでしょうか。…ですが、まぁ、サンタのプレゼントは有難く受け取っておきましょう」

敬助さんは素早く私の顎に手をかけ、ちゅっ と軽く唇を合わせる。

冷たいですね、と嬉しそうに呟いた敬助さんは私の腰に手を添えて、部屋の中へ入るよう促す。

「ロシアの夜は冷えますからね。じっくり…温め合いましょう」

おっと、ここからは大人の時間です。

よい子の皆さん、うちの子も一緒に配るサンタおじさまからのプレゼント、楽しみにしていてくださいね。

Merry Christmas !


The end.



→葡萄さんへ

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