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拝啓 

おかあさん、サンタおじさま

娘はついにあのクッキー事件の憎き犯人を捕まえました。

このぱちーにーがおかあさんのクッキーを盗み食いしなければ、あるいはクッキーを1枚でも残していたら。

おかあさんとサンタおじさまは喧嘩別れをすることはなかったのです。

私は二人に起きたことをぱちーにーに話しました。

悪気はなかったとはいえ、ぱちーにーの行いのせいで幸せだった二人が別れてしまったことを。

ぱちーにーは深く反省し(というより私が反省させ)二人に謝りたいと言っています。

そこで私とチビスケは考えました。

今夜、サンタおじさまが大好きだったレシピでクッキーを焼いて、おじさまに差し入れに行きます。

どうか20数年ぶりに会うサンタおじさまの、おかあさんへの誤解が解けますように。

そしてこのクッキーに免じて、サンタおじさまがぱちーにーを許してくれますように。

敬具

なまえ



「なぁ、本当に行かなきゃだめか?」

「行かなきゃだめに決まってるでしょ!」

チビスケと二人で防寒着をしっかり着こみ、ぱちーにーの魔法で連れてきてもらったのは地球のどこか。

大きな時計塔の屋根の上に座り、私達はサンタおじさまが来るのを待っている。

ぱちーにーによると、いつもこの時計塔の上でちょっと休憩するのがサンタおじさまの習慣なんですって。

そうそう、ぱちーにーがサンタと知り合いのようで知り合いじゃないと歯切れ悪く言った理由。

ぱちーにーは昔はニッセのように、毎年この時期はサンタおじさまのアシスタントをしていたらしい。

けれども、あちこちでサンタ用クッキーの盗み食いをしたのがおじさまにバレて激怒され、サンタおじさまの家を出入り禁止になったんだとか。

サンタおじさまったら、やっぱりクッキーの恨みは深いのね。

「おかーさん、ひどいよ。サンタと友達だって僕にないしょにしててさ」

チビスケはさっきからずっと同じことを言って拗ねている。ブチブチ言いながらもクッキー作りはちゃんと手伝う、良い子だったけども。

「ごめんなさい。…って何度言ったら許してくれる?

だってね、サンタとは知り合いだけど、うちにサンタが来なかったのはおばあちゃんとおかーさんのせいだもん。

そんなことサンタに会うのを楽しみにしてるあなたには言えないでしょう?」

丸く触り心地のいい頭を撫でながら謝れば、やっとチビスケは納得してくれた。

「うん、分かった!ゆるすよ。ねぇ、今夜おかーさんと仲直りしたら、サンタさん来年から僕んちに来てくれるかな?」

「さぁ…どうかしらね。そうだといいけど…、あっ!この音…。ねぇ、聞こえる?」

どこかから聞こえてきた鈴の音と、ホーホッホッホー!というお約束の笑い声。

サンタおじさまは普段は「ふはははは!」って笑うけど、サンタのお仕事のときはサンタらしく笑うんだ。

「来た来た!…ちょっと待ちなさい!ぱちーにー!」

「うげっ!捕まった!見逃してくれよ、なまえちゃ〜ん!!」

目の端でぱちーにーがそろりそろりと逃げようとしたのが見えたから、子猫を捕まえるみたいに首根っこを掴んで顔の前にぶる下げた。

「逃がさない!悪いことしたって反省してるんでしょ?だったら、ちゃんと謝りなさい!」

「だってよう…」

「だってじゃない!往生際が悪いわね!ほら、一緒にサンタおじさまを呼んでちょうだい!」

「往生際って、縁起でもねえ事言わねえでくれよぅ!はぁ…、ここまで来ちまったらしょうがねえか…」

ぱちーにーは聖夜じゃなくお通夜みたいな顔でため息を吐いて、とりあえず屋根の上に下ろしてくれと私に頼んだ。

小さな足が赤い屋根を踏んだ直後、ぼんっと小さな爆発音と共に煙がもくもくと立ち込めて、普通の人間サイズに大きくなったぱちーにーが姿を現した。

なるほど、お姉さんのいるお店に行くときはこの姿で行くわけか。

まっ!イイ体してるじゃない!筋肉ムキムキでしかも顔は爽やかイケメンだし。

私の中のぱちーにーの好感度がちょっとアップした。現金だわね、我ながら。

そんなことは知らないはずのぱちーにーはマッチョな太い腕をブンブン振りまわしてサンタおじさまに大声で呼びかける。

「おーーい!せりざわさーーーん!こっちこっちー!!」

ああ、言い忘れてた。サンタおじさまの本名は『芹沢鴨』さんと仰るの。

ね?全然サンタっぽくないでしょ?


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