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ソリで空を飛んだとびきり素敵な思い出と、焦げたクッキーのような苦〜い思い出。
その二つが混ざり合うから、毎年クリスマスイブは少しセンチメンタルな気分になる。
私が母親になり、家族三人で母から譲り受けたこの家に住むようになっても、サンタおじさまは一度もここにプレゼントを届けに来ていない。
流石にもう、クッキー事件のことは怒っていないだろうけど。たぶん、気まずいのだろう。
だから今年もチビスケのために、私がサンタさんの代わりをするのだ。
『サンタをつかまえるぞボックス』かぁ…。
サンタに会うことを夢見て夏休みから頑張ってた姿を見てきただけに、サンタの代わりをすることにはちょっぴり罪悪感がある。
でも、サンタおじさまはきっと今年も来ないだろうし、パパの言うとおりクッキーの箱を外に持ち出して中身を食べてしまわなきゃ。
冷えてしまったホットミルクもお腹に収めよう。なるべく物音を立てないようにダイニングへ向かう。
ダイニングに近付いたとき、突然私の耳に音楽が聞こえてきた。
あれ?これって『サンタをつかまえるぞボックス』の電子オルゴールの音よね?
まさか!サンタおじさまが来たの!?
けれど、直後に聞こえてきた声に私は悲鳴を上げた。
「ぬおおおおっ!この味はぁぁぁ!!!」
「ぎゃー!!!」
今の、サンタおじさまの声じゃなかった!じゃあ、誰!?また泥棒!?
「泥棒!!!」
恐怖心と戦いながらダイニングの照明を点けてから丸腰なのに気付いて、慌ててキッチンから包丁を取って戻る。
だけど、そこに泥棒らしき姿はない。
…あれ?
「ぬおっ!待ってくれ!誤解だ!!怪しいもんじゃねえから、包丁をしまってくれよ!」
「きゃあ!ど、どこから声がするの!?」
「ここだよ!テーブルの上だ!おーい!」
「テーブルの上?」
まだ包丁は構えたまま言われたとおりにテーブルに視線を落とし、私は包丁を持っていないほうの手で目を擦った。
私が目にしたのは『サンタをつかまえるぞボックス』から這い出して来る小さな生き物。
本物のサンタクロースにも会ったことがあるから、不思議な存在への免疫は多少ある。
だけど、目の前の生き物はなんというか……うん、まず縮尺がおかしい!
それはちょうどティーポットに入りそうな大きさの小さな人間(?)だった。
いかにも小人らしいとんがり帽子…は被っていないけれど、代わりに赤い鉢巻を締めている。
この時期にしては寒々しい袖無しの服も赤だ。
口の端というかほっぺにもおでこにもクッキーのカスが付いている…こやつ、盗み食いしたな!
「あんた、何者!?」
「おかーさん、大丈夫!?…うわああ!!なにそれ!!??」
私の悲鳴を聞きつけたチビスケがおもちゃの刀を持ってダイニングへ飛び込んできた。
そしてテーブルの上の生き物にびっくり仰天して、私の背中に隠れる。
こら、チビスケ!刀がかーさんの足に当たって痛いぞっ!
「俺か?よくぞ聞いてくれたぜぃ。俺様はだな、急須の妖精ぱち…」
「「捕まえたー!!!」」
テーブルの上の奇妙な生き物が芝居かかった身ぶり手ぶりで自己紹介をしている隙に、私はチビスケに目配せした。
チビスケは素早くテーブルの上にあったプラスチックの皿カバー(食べかけのシュトレンに被せてあった)で奇妙な生き物を捕獲した。
「おいっ!人の名前尋ねといて、なにすんだよ!」
と籠った声で聞こえるけど、親子揃って華麗にスルーする。
「おかあさん、これ、何?」
「分かんない。ニッセかな?」
「ニッセ?」
「赤い帽子を被った小さな妖精。いたずら好きだけど、この時期はサンタクロースのお手伝いをするのよ」
「え!?じゃあ、サンタの友達!?」
「さぁ…分からないわ。ねえ、あんた!サンタおじさまの知り合い!?」
皿カバーで閉じ込めたまま、内側にも聴こえるように大きめの声で尋ねる。
「サンタの知り合いかって?…まあ、知り合いっちゃ知り合いだけど…今は知り合いじゃねえっつうかなんつうか」
小さな妖精(仮)は歯切れの悪い答えをする。私はイラッとしてヤツを問い詰めた。
「知り合いなの?知り合いじゃないの?どっちなの?」
「お、おい、睨むなよ!おっかねえなぁ…。ま、一応知り合いだ」
「すごい!!サンタの友達だって!出してあげようよ!」
「嘘じゃないわよね?」
「失敬な!嘘じゃねえやい!…あぐっ!いってぇ…!」
ぴょんと飛び上がって怒りを表した小さな妖精(仮)は皿カバーに頭をごんっとぶつけてうずくまった。
うーん、なんだかおっちょこちょいみたいだし。解放しても害はなさそう。
「カバー、開けていいわよ」
「わーい!ねー、サンタの友達!名前はなんて言うの?」
「さっき名乗っただろ?急須の妖精・ぱちーにー様だ!」
今度はよく通る声で、小さな妖精(仮)こと『ぱちーにー』は名乗り、えへんと胸を張った。
「急須の妖精?…急須はどこ?」
「う゛…、そ、それは訳があってだな…」
ぱちーにーが話したのは何ともおっちょこちょいなエピソードだった。
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