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「それじゃあ今夜はこのへんで。パパおやすみ〜!」

『はい、おやすみなさい。メリークリスマス』

「「めりーくりすまーす!」」

スマホの画面に映るのは今夜も知的な丸眼鏡とさらさらヘアが素敵なパパ。

チビスケと一緒に手を振ってビデオ通話を終えた。

今年のクリスマスはパパがロシアに単身赴任中なので、チビスケと私の二人きり。

それじゃあちょっと寂しいので今夜はパパのほうのじいじとばあばのおうちに遊びに行った。

じいじもばあばも孫と過ごせるクリスマスに大喜びで、ごちそうやプレゼントでたっぷり甘やかされたチビスケはほくほく顔だ。子供っていいなぁ。

ちなみに私の父は既に他界していて、母はとある理由でクリスマスを恨んでいる。その話はまた追々。

「おかーさん、サンタが来たらちゃんと起こしてよ!」

「はいはい、起こしてあげるから安心して寝なさいな」

「ぜったいだよ!!」

「うんうん、おやすみー」

「サンタが来たら起こしてね」というやり取りは、ここ数年のクリスマスイブの夜の恒例である。

そして翌朝の

「うわ〜ん!どうして起こしてくれなかったのさ〜!?」

「ごめーん!サンタさん、パパもおかーさんも寝ている間に来たみたいで、気付かなかったの!」

のやりとりも毎年恒例。

チビスケは親に寝ずにサンタの番をしろなんて言うようなワガママな子じゃないし。

自分の眠りが深く滅多なことでは起きないことも自覚してるから、両親の言うことを1ミリも疑わずに信じてくれる。

だから私達夫婦は、毎年チビスケが寝る前にテーブルの上に置いたサンタさん用のクッキーとホットミルクを自分達のお腹にしまい。

イブまで秘密の隠し場所に隠しておいたプレゼントをチビスケの枕元のソックスにそっと入れ。

サンタは来たみたいだけど誰も気付かなかったという偽装工作に苦心することはなかった。

けれども今年はちょっとばかり面倒なことになっている。

「おかーさん、サンタさんのクッキー、この箱に入れて!」

「…はいはい」

さっきベッドに押し込む前にチビスケが得意満面の笑みで私に渡した問題の箱。これがくせものだ。

見た目はただの赤や緑のクリスマスカラーの折り紙で飾り付けした紙箱。

しかし小学生が工作した只の箱と侮るなかれ。

これはチビスケが今年の夏休みの自由研究で考案した『サンタをつかまえるぞボックス』なのだ。

『サンタをつかまえるぞボックス』とは何ぞや?と言うと、要するに、蓋を開けると音楽が流れる箱である。

この中にサンタの好物のクッキーを入れておくと、サンタが取り出すときに音楽が鳴って知らせてくれる。

ほら、よくバースデーカードやクリスマスカードなんかで、開くと音楽が流れるのがあるでしょう?

あれに使われている電子オルゴールを箱に仕掛けてあるんですよ。小学四年生にしては良く考えたでしょ?

取り付けた電子オルゴールはなかなかの大音量。

だから夜中にその音楽が鳴れば眠りが深い自分でも起きられるに違いない!というのがチビスケのアイディアだ。

自分ひとりでそれを思い付いたチビスケにパパは

「ほぉ…考えましたね」

と言ってひっそりと笑った。これはまずいことになったぞ、と冷や汗を掻いた私には

「心配要りませんよ。箱ごとこっそり家の外に持ち出して、クッキーを取り出してしまえばいいのです」

と黒い笑顔を見せた。チビスケが策士なのはきっとパパに似たのだと思う。

「…よし、ぐっすり寝てる」

チビスケの寝顔を覗いて確認した私は、足音を立てないようにそっと二階の子供部屋の扉を閉めた。

1階へ下りる途中、階段の明かり取り窓からチラチラと光る白い物が見えた。

「おぉ…」

ホワイトクリスマスだ。これは明日の朝チビスケが大喜びするぞと思いつつ、私の脳裏にある光景が甦る。

その光景を思い出すのも毎年恒例のこと。雲の上から見た、雪が粉砂糖のように街に降りつもる情景。

『サンタおじさま』のソリに乗せてもらった、10歳のクリスマスイブの思い出。




信じてもらえないだろうからほとんど誰にも話した事はないけれど、私はサンタクロースに会ったことがある。

何を隠そう、かの有名なサンタクロースは私の母の恋人だったのだ。



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