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「ねー。土方さん。出来たー?」
「…………。」
「そんなに時間がかかる衣装じゃないよねー?」
「……っ!この衣装はてめぇの仕業かぁ!!」
私の言葉から色々と読み取ったらしい、土方さん。
ちょっと(いやかなり)うるさいけれど、ちゃんと衣装を着てくれたから良しとしよう。
「おーおー。怒鳴るカボチャ。うんうん、面白いかもっ」
「あはははははwwwwwwwwww」
「沖田さん、大丈夫?涙まで流しちゃって…。やっぱり私、ベストチョイスだね」
沖田さんほど露骨に笑う人はいないが、皆笑いを堪えているみたいだ。
土方さんに心酔している斎藤さんですら、微妙に肩が震えてる。
顔は見事にポーカーフェイスだけども(笑)
「総司……お前後で覚えておけよ…」
ひっくーい声で脅す土方さんは怖いけど、ジャック・オ・ランタン――要するに、大っきなカボチャを頭に被ったままじゃ、イマイチ迫力に欠ける。
というかむしろ、さらに笑いを堪えるのが大変になったんですけど…っw
皆はどうだろう…と周りを見渡してびっくり。
いつの間にか、沖田さん以外の人の姿が忽然と消えていたのだ(沖田さんは現在進行形で土方さんと言い争っている)。
……あ、遠くで弾けるような笑い声が聞こえた。
皆、限界が早すぎるでしょ…。
「あーあ、面白かった。じゃあ僕、この後用事あるんで。失礼しまーす」
…………沖田さんまで逃げた?!
え、カボチャ頭の土方さんと二人きりなんて、どんな拷問よ!!(自業自得)
「………おい、遥香」
「は、はい…?」
「お前も、散々笑っていやがったよなぁ…」
二人きりになった瞬間、くるーりとこちらを向いた土方さん。
あれー私が沖田さんの陰に隠れて笑っていたのを、しっかり聞いていらっしゃったー!!
「…責任、取ってくれんだろーな?」
何の責任ですかぁぁという突っ込みは声に出せない。
じりじり、じりじり。
壁際に追い詰められている気がするのは気のせい…よね?そう思いたい。
けれど、現実とは残酷なもので。
ドンッと何かに背中をぶつけた感触。
「何か」なんて、壁以外にない訳で…。
さらに、身体の両側にそれぞれ腕をつかれてしまえば、もう逃げ場なんてどこにも見つからない。
「そういや、今日はハロウィンだったな」
「………?」
かなり今さらな確認に、絶賛混乱中の私は答える余裕もない。
「……Trick or Treat?」
ここできますかーっ?!
持ってきたお菓子は部屋の隅に置いてあるけれど、土方さんが私を逃がしてくれる訳もない。
そうすると、これは最早二択でも何でもなくて――。
いつの間にか脱ぎ捨てられたカボチャのオレンジが、黒色で染まりつつある視界の隅に映った。
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