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《Sprite》








――厄介なことになった。


目の前にちょこんと並んで座る二人を見やって、土方は渋面になった。


一人は「雪村千鶴」


行方不明になっている蘭方医の娘で羅刹を目撃してしまっていて、その扱いにさえ苦慮しているのだが。


更にもう一人。


雪村千鶴よりも小柄で萌黄色の瞳と真っ白な肌。髪は梨の花のような色で、さらさらと長い。この姿は異人の子供と言っていいのだろう。


しかし、このやけに長くて尖った耳は、果たして「異人ならでは」のものなのか。いや、そんな話は聞いたことがない。


そして、なめし革の変わった形の鎧に腕や足の露出した服。
捕らえたときには、これまた変わった形の弓矢を持っていて。

極めつけには、光の玉を飛ばして羅刹を一人倒したのだという。


只の異人というには、何かが違いすぎるような気がした。


土方は威圧するように腕を組んで睨みつけてはいるが、一向に怯む様子もなく、物珍しそうに辺りをきょろきょろ見回している。


――どっかの間者……ねぇな。こいつ、何者だ?


「やっぱり殺しちゃいましょうよ」


その言葉に異人の子供が反応して、沖田を睨みつけ声を上げた。


「か弱い女性二人をぐるぐる巻きにした挙げ句、大勢で囲んでよってたかって脅すなんて、騎士の行いでも紳士の振る舞いでもありません!あなた方は邪悪ですわ!!」



舌鋒鋭く責められた彼は、豆鉄砲を食らったように目を丸くした。


「…邪…悪?」


次いで、原田と新八、平助の爆笑が広間を満たす。


「何が可笑しいんですの!?」


「い、いや、悪り…っくく」


「ははっ……嬢ちゃん、なかなかいい度胸してんな」


『嬢ちゃん』


原田が言ったその呼称が先程から沸点を突破していた彼女の怒りを更に煽ったらしい。きっと彼を睨みつける。


「淑女に対して随分失礼ですのね。それに、わたくし『嬢ちゃん』でも『子供』でもなくってよ!少なくともあなた方よりは年上ですわ」


「いやいや、どう見たって俺よりちっちゃい子供じゃん」


「失礼にも程がありますわ!あなたのようなお子様に子供扱いされる筋合いなくってよ」


「おこ、お子様!?」


平助に挑戦的な言葉を叩きつけ、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く少女に笑いを堪えながら原田は尋ねる。


「おい、平助がお子様ならお前さんは赤子じゃねえのか?年は幾つだ、嬢ちゃん」


「今年二百五十一になりましたわ。妙齢の女性に年齢を聞くなんて、無礼にも程がありますわよ。それに、お嬢ちゃんではなくてわたくしにはテッサという名前が……って、聞いてますの!?」


「……おい。お前らうるせえよ!詰まらん冗談も止めろ!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐお調子者達と少女(?)を渋面で睨み付けていた土方が、場を沈静化させようとして声を上げる。


「わたくし、嘘など吐いておりません。孫も曾孫もいるのに、サバよむ意味がどこにありますの?」


「……曾孫」


今まで空気だった近藤が呆然と呟いた。



「もう!幾らイーストエンドの方々でも無知が過ぎますわ!エルフ位ご存知ないの?」


些か憤慨した様子で彼女は胸を反らしたが、周囲の者達がきょとんとしたり首を傾げて居るのを見て、少し何らかの自信を無くしたようだ。


急に声を落として、近くに居た原田に尋ねる。


「あの、ここって『イーストエンド(東の最果て)』よね?」


「残念だがイーストエンドとやらじゃあねえなあ」


短く返されたテッサは、その他の面々が彼の言葉を肯定するようにうんうんと頷いているのを見て『信憑性あり』と信用したらしい。


「じゃあ、ファーランド?それともケイオスランドとか」


「どれも違う。テッサ、だったな。此処は日の本の国、京の都だ」


質問を重ねるテッサに、原田が先程の茶化す態度を改めて答えると、彼女はみるみるうちに脱力した。


「じゃあ、アレクラスト大陸は」


「聞いたことねえなあ」


「扉(ゲート)は」


「襖ならあるんだが?」


「えー……」


「で、おまえは何者で、何処から来たんだ?」











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