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「「「「……………え?」」」」

暫しの沈黙の後、私とトシと山南さんと原田さんの4人の声が重なった。

指輪は第二関節の手前でピタリと止まり、どう頑張ってもそれ以上通らない。

「……テメエ、太ったな」

「なっ!失礼ね太ってなんかないわよ!ちょっとトシ痛い!痛いってば!」

「ならなんで入らねぇんだよ!おまえの指輪と同じサイズだぞ!」

ポケットから苛立たし気にカウンターへ叩きつけられたのは、無くしたと思って探していた指輪だった。

「あっ!おばあちゃんの指輪!」

「は?おまえのじゃねえのか?」

「おばあちゃんの形見よ!大事にしてたのに勝手に持ち出さないでよ!」

「ンな大事なモンその辺に転がしておくんじゃねぇよ!」

「転がしておいたりなんかしてない!だいたい何よ、返事もしてないのに勝手に指輪嵌めたりしないでよ!」

「なんだとコラ!断るつもりか!」

「そういう問題じゃないでしょ!断られる筈が無いって思い込んでるその自信満々な感じが腹立つの!」

「だったら返せ!」

「返さない!あんたみたいな面倒な男、私が一生世話してやるんだから!」

「ぶっ…!あははははは!聖子ちゃん、いいキャラクターだなあ」

我を忘れて大声で怒鳴り合う私達を止めたのは、原田さんの爆笑だった。

「そこまでになさい。注目を浴びてますよ」

苦笑混じりの山南さんの言葉に周囲を見回すと、お客さんのほぼ全員が口元を押さえて笑いを堪えていた。

「…お、お騒がせを……」

顔から火が出るとはこのことだ。

苦笑と共に溜め息を吐いて、ケーキのお皿と私達のグラスを下げた山南さんは、代わりに細長いシャンパングラスを差し出した。

「随分と面白いアトラクションでしたが。もう一度きちんとやり直した方が良くはありませんか、土方君」

「ああ、そうだな。……聖子」

咳払いをして、大きく息を吐いて。

「どうもおかしなことになっちまったが……。
聖子。俺と────結婚してくれ」

中途半端に指輪が嵌った手を取って、トシは真剣な眼差しで私を見詰めた。

「──────はい…」

見詰め合いながら頷くと、テーブル席の奥の方から「きゃぁっ!」という女性の声がした。

それを合図に各席から拍手が起こる。

「お客様、シャンパンはいかがですか。
彼は私達の旧い友人です。長年のお付き合いが実ったことの証人として、皆様からも祝福の乾杯を」

山南さんが店内を見回してそう言うと、喝采が大きくなった。

原田さんがシャンパンのコルクを飛ばし、各テーブルにサービスして回る。

「あなた達も。これは私と原田君からのお祝いですよ」

グラスに注がれた淡いピンクのシャンパンが、底に一粒沈んだスミレの砂糖漬けをゆっくりと浮かび上がらせる。

「おめでとうございます。それから、メリークリスマス」

「メリークリスマス」

パチパチと微かな音を立てるグラスを持ち上げて乾杯しながら、結婚式では山南さんにスピーチして貰おうと、気の早いことを考えた。









プロポーズ・終

あとがき →
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