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「綺麗!」
周囲のお客さんからも感嘆の声が洩れ、カシャ、と軽い音を立ててシャッターが切られると、お店のメニューみたいな写真が撮れた。
「宜しいですか?」
「はい、ありがとうございます」
笑いを含んだ山南さんの声が聞こえて、花火が燃え尽きると同時に店内が元の明るさを取り戻す。
「では冷めないうちにどうぞ。このホテルのパティシエ自慢のケーキですよ」
「はい!」
ふたつに割ると中から温かいチョコレートが流れ出して、しっとりと重い食感のフォンダンショコラは、自慢だと言うだけあって高級パティシエールも顔負けの美味しさだった。
「満足したか?」
「うん。ありがとう、さっき電話しに出たのって、ここに掛けてたんでしょ」
私が嫌味を言ったから。
じゃなきゃディナーが居酒屋だったなんて、山南さんが知ってるわけが無い。
きっと急いで考えて無理を頼んでくれたんだ。
「まあ……今日は他に目的もあったしな」
「?」
目的って何だろう。
首を傾げていると、トシは山南さんに目配せをして私に向き直った。
すっと奥へ引っ込んだ山南さんが、真っ赤なベルベットの小箱を手に戻って来る。
「手ぇ出せ」
トシに近い方、左手を差し出すと、「馬ぁ鹿」と苦笑したトシは、私の掌を下に向けた。
小箱から摘み出されたのは、可憐なデザインのダイヤの指輪。
「え……」
驚いて声も出ない私の手を取って、じっと目を見詰めて、「結婚しよう」と微笑みながら、左手の薬指に指輪が嵌められ…………
……………なかった。
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