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イブを最終日に擁した三連休。

ワーカホリックのトシは、連休中日だっていうのにお構い無しに出勤している。

7時の約束じゃなかったかしら。時計の短針が8時を指してるように見えるのは、私の目がおかしいのかしらね。

こんなことなら外でデートしたいなんて言わずに、トシの家で夕飯の支度でもして待ってた方がマシだった。

だけどそれじゃあんまりにもいつも通り過ぎて、結婚ン年の倦怠期の夫婦みたいだと思ったんだもの。

確かに「遅くなるかもしれない」とは言われたけど、でも流石に外で待ち合わせてて1時間も遅れるとは思わなかった。

だったらカフェにでも入ればいいのかもしれないけど、そういう場所はカップルでいっぱいだ。

万一キャンセルでもされたら、ひとり寂しくお会計して帰るなんて肩身の狭い思いをしかねない。

電話どころかメールのひとつも寄越さないトシにいい加減腹が立って、ハンバーガーでも食べて帰っちゃおうかと思い始めた時、人混みを掻き分けて走って来るトシの姿が目に入った。

「悪い!遅くなった!」

「……寒いよ。早くどこか入ろう」

「ああ、悪かった。出がけに電話が入っちまって」

この寒いのに額に汗を浮かべて、真っ赤な顔をして肩で息をする様子を見たら、それ以上文句が言えなくなった。

いつもこうだ。

待つのはいつも私ばっかりで、トシはいつでも仕事仕事仕事。

高校で同じクラスになって、女の子達のトシを巡るとんでもない激戦を冷めた目で見ていた私が、どうした訳かいつの間にか彼女の座に収まっていて。

希望の進路が異なっていたから大学は別々になって、それでも別れることにはならなかった。

交友関係が違えば私の耳に届かないような女の子との付き合いもあっただろうけど、そういうことが元でギクシャクするようなことも無かった。

周囲からは『無欲の勝利』なんて言われたけれど、自分でもまさか今まで付き合いが続くとは思ってもみなかった。

それでもやっぱりこの容姿、本人にその気が無くても惚れた腫れたの噂話が絶えない人だし、私と居る時は完璧にエスコートしてくれるけど、それもなんだか手慣れてる感じで嫌だった。

付き合いが長くなればそういう関係になるのも当たり前、いい年をした男女がいつまでも初々しい空気を振り撒く筈もなく、今更トキメキもドキドキも感じることは無い。

私がいつまででも待ってると思ったら大間違いなんだから……と胸の中で悪態を吐くけれど、なぜだか結局こうして丸め込まれてしまう。

すっかり冷えきった手をトシの手に絡ませれば、きゅっと握り返してポケットに入れてくれた。

ポケットの中で、温かい指が絡みついてくる。

頭ひとつ高い位置にある顔を見上げたら、真っ白な息に霞んだ端整な横顔が、私を見下ろして柔らかく微笑んだ。




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