五 

「ん、・・・」

壁に寄りかかる俺の、更に胸元に寄りかかっている月乃が漏らした吐息に、結局また溜息が零れた。
飲み過ぎるなと言ったにも関わらず、すっかり酔ってしまったらしい。
少し前に感じた杞憂は、現実になってしまった訳だ。

「おい、月乃。」
「ぅ・・んー・・・」

擦り寄る身体は僅かに火照り、その瞳は眠たげに伏せられている。

「ここで寝る気か?」

ここで寝るなとは言えず、そんな質問をして誤魔化した。
どちらにしろ、睡魔に襲われている時の月乃はこちらの話など殆ど聞いちゃいねぇ。
案の定、「うぅん?」なんて曖昧な返事が返ってくる。

「ったく、しょうがねぇ奴だ。」

そう呆れつつもこいつを放り出せないのは、惚れた弱みというやつか。
手に握られたままだった盃を取り上げて傍らに置き、力の抜けきった身体を抱き上げた。
奥の間に続く襖を足で引き開ければ、月明かりに照らされた寝室が顔を見せる。
どうやら今夜はこれ以上仕事にならなさそうだと、灯された灯りを吹き消した。

「ん・・・?と、し?」
「ああ、・・寝てろ。」

布団に下ろした衝撃でかうっすらと目を開ける月乃に、静かに声を掛ければそれはまた閉じられる。
着物の帯とその下のサラシを緩めてやれば、ほう・・と息を吐いて僅かに笑みを浮かべた。
その様子を横目に、自分も袴から寝間着へ着替えを済ませる。
捲った布団に滑り込めば、無意識だろうが腕に擦り寄って額を押しつける。
それを抱き寄せれば腕に頭を乗せて、もぞもぞと動いて勝手のいい体勢に落ち着いた。

「月乃・・・」

一連の可愛らしい仕草に、自然と頬が緩む。
するりと零れた囁きに、扇のような長い睫がふるりと揺れた。

「、とし・・」
「ん?」

呼び声と共に瞼が持ち上がり、焦点の合わない瞳が俺を見上げる。
ゆっくりと開かれた唇から零れたのは、今までに聞いたことのない本音だった。



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