三
「それにしても、戻りが早かったじゃねぇか。」
早くても日付が変わった後だと踏んでいたと言えば、月乃はふっと珍しく柔らかい笑みを浮かべた。
そうやって笑うとただの女にしか見えなくて、美醜に興味のない俺でも思わず見惚れてしまいそうだ。
「どうしても、今日のうちに帰って来たかったんだ。」
意味ありげに笑んで、宙に彷徨わせていた視線を俺へと向ける。
「用事でもあったのか?」
「ある人に会いたかったんだ。」
「ある人?」
こいつが会う用事のある奴など隊員以外には思いつかなかったから、誰だろうかと首を傾けてしまう。
余程に訝しげな顔をしていたのか、月乃は楽しそうに肩を揺らした。
「心配するな。」
「・・・心配なんざしてねぇよ。」
他の奴との遣り取りがあるからといって、やきもきするほど嫉妬深くはねぇ・・・筈だ。
「お前だ、土方。」
そんな俺の思いを掻き消すようにそう言って、細い指がするりと頬に触れた。
「お前の生まれた日を祝いに来た。おめでとう、トシ。」
「知ってたのか・・・。」
知られていたのは予想外で、だがそれが嫌ではない。
むしろ俺に会う為に、この言葉を伝える為に帰ってきてくれたことが、ひどく嬉しい。
「祝いの品はないが、許せ。」
「んなもんいらねぇよ。」
その頬に手を添え返して僅かに引き寄せれば、長い睫に縁取られた瞼がゆっくりと伏せられる。
「月乃が居れば十分だ。」
触れた唇は甘く柔らかで、離したくねぇなとそんなことを思った。
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